書店に駆けつけた増井孝充さん(撮影/井上啓太)
書店に駆けつけた増井孝充さん(撮影/井上啓太)
ハルキストを取り囲む報道陣(撮影/井上啓太)
ハルキストを取り囲む報道陣(撮影/井上啓太)

 “ハルキスト”たちの願いは今年も届かなかった。ノーベル文学賞が発表された10月10日、ライブ中継が行われた紀伊国屋書店新宿本店には村上春樹さん(70)のファン約20人と、マスコミ関係者ら40人以上が集まった。村上さんが受賞を逃したことが伝えられると、結果を見守っていたハルキストたちは悔しさから手で顔を覆った。記者が現場の様子をルポする。

*  *  *

 村上さんが作家としてデビューする前、ジャズ喫茶を経営していたという”聖地”千駄ケ谷。近くの鳩森八幡神社では文学賞受賞を願い、例年発表までのカウントダウンイベントが開かれていた。記者が取材を申し込むと神社からの回答は意外なものだった。

「今年は中心になる人がいなくて、イベントは開催しないんです」

 毎年、候補にあがるものの惜しくも受賞に至らなかったことで、ファンの間で熱が冷めてしまったのだろうか。

 村上さんについて詳しい記者はこう話す。

「ハルキストには”今年こそ”という思いがあると思います。ただ、村上さんはファンにイベントを開かれることをよくは思っていないという話もあります。それがファンの間で広まり、自粛したのかもしれません」

 そこで都内の複数の書店に問い合わせたところ、新宿の書店では、モニターを設置して授賞式のライブ中継を行うという。さっそく帰宅ラッシュで混雑する新宿へ向かった。

 午後7時、紀伊国屋新宿本店内に設置されたモニターの周囲には報道陣が、身動きが取れないほどに”満員状態”で詰めかけていた。

 するとハルキストだと思われる1人がモニターに向かって歩いてきた。報道陣が一斉に詰め寄る。取材に応じた会社員、増井孝充さん(51)は、「『今年こそ!』という思いです。今回は2作品が選ばれるのでチャンスはあると思っています」と話した。

 村上さんがファンだという東京ヤクルトスワローズのユニフォームに、短パン姿で訪れた増井さん。例年は千駄ケ谷の神社に行っているが、今年は開催されないことを知って書店に駆け付けたという。受賞に備えて、手作りの「祝ノーベル文学賞受賞」のプラカードを持参した。

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ハルキストの思いとは