江戸時代の和歌占いの本(歌占本)を1ページずつにほどいた断簡
江戸時代の和歌占いの本(歌占本)を1ページずつにほどいた断簡

平野教授は、江戸時代の歌占本を古書店やネットオークションで収集しているほか、研究室には占いゲームやマンガ、開運グッズがたくさん
平野教授は、江戸時代の歌占本を古書店やネットオークションで収集しているほか、研究室には占いゲームやマンガ、開運グッズがたくさん

 日本人は「ここぞ」という瞬間や季節の区切り、「願掛け」としておみくじを引く習慣がある。自分の心を素にして神様に願うことで、背中を押してもらったり、ネガティブな考えをポジティブに変えたりもしてきた。
ASAHI ORIGINAL『関東の大学力2020』では、おみくじ研究の第一人者にして成蹊大学の教授である平野多恵先生に、その魅力を取材した。

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 初詣に合格祈願、旅の途中で訪れた神社やお寺でひく「おみくじ」。日本文学が専門の平野多恵教授は、このおみくじを研究している。
「おみくじは神様、仏様のお告げをいただくもの。お寺の場合は中国から仏教と一緒に伝わってきたので漢詩がもとになっています。私がとくに興味を持っているのは、日本で独自につくられた神社のおみくじ。神様は和歌を詠むと考えられていたので、和歌が書いてあることが多いんですよ」

■おみくじを大解剖、「占いの文化史」を解き明かす

 吉か凶かの運勢だけではなく、進路、恋愛、人間関係など、占いたいことを具体的にイメージして、お告げの和歌をそれに合わせて解釈する。これを「歌占(うた・うら)」といい、江戸時代から人気があったそうだ。
 
 教授の研究室には、江戸・明治時代の「歌占本」が何冊も置かれている。そのうちの一冊を使って、取材スタッフの悩み「新しい自転車を買っていいか」について占ってもらった。すでに1台持っているが最新モデルもほしい。高価であることや場所をとることから、あきらめるべきか迷っている。
 
 まず、おまじないの歌を3回唱えて、天、地、人と書かれた小さな木片をサイコロのようにパラパラッと振る。文字が表側に出たものを、天2枚、地2枚、人1枚と数えて、その数に合う歌を本の64首から探すと、
 
 天の原ふみとどろかし鳴神の
 思ふなかをばさくるものかは
「空で雷がゴロゴロ鳴っているけど、心配しなくていいよ、という歌です。つまり、今の悩みの場合、もう持っているのになぜまた買うの?と周囲に言われる不安があるのかもしれないけど大丈夫、というお告げですね」

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歌占に欠かせないコミュニケーション力