そんなとき、私は、わかりやすいように2択にして、自分で選ばせるようにしています。両手でグーをニつつくって、「こっちはロボットをつくる、こっちは靴下をはく、今は何をすべきでしょう?」と、なぞなぞのように問いかけてどっちの手が大事かチョイスさせます。

 そして「ヒント、間違えたほうを選ぶとバスに置いていかれてしまいます」と、たたみかけます。息子は(あるいは子どもはみんなそうかもしれませんが)、なぞなぞに正解するのが大好きなので、バカ正直に、「靴下をはく!」と選んでくれます。

 ここに一つポイントがあります。人間は心理的に、「自分が宣言したとおりに行動するようになる」という習性があるのです。

■発言すると、そのように行動せざるを得なくなる

 たとえばある人が、「公園は綺麗につかうべきだ!」と一度でも発言した場合、その後は公園でゴミのポイ捨てもしなくなり、むしろゴミを拾うような人間になっていくのです。

 子どもも同様に、うまくのせられたとしても、自分が「今は靴下をはくべきだ」と選んで発言したのですから、そのように行動せざるを得なくなります。ご飯のときも、「今やるべきことは何でしょうか?」「ご飯を食べるべきでしょうか、テレビを見るべきでしょうか?」と質問し、「ご飯は今すぐ食べないと片づけられてしまいますが、録画したテレビは後からいつでも見ることができます」とヒントを出します。

 そして、今やるべきほうを「自分で選んだ」からこそ、しぶしぶとテレビを消して、自分で食卓にむかっていってくれます。実はこの方法は育児的にも大きなメリットがあって、「テレビを見るのをやめて食卓について!」と説得したり強制したり、子どもとバタバタもめずにすむので、かなりラクになります。

 やるべきことを選択するのは、自制心を鍛えるのと同じことです。子どもだって、心の中では、今はご飯を食べるべきだとはわかっています。しかし、テレビを見たい欲求を抑えられないでいるのです。

 そこにがまんさせるキッカケをつくり、現在やるべきことをするように言うことで、精神力を強くする訓練にもなります。アメリカの心理学の研究では、「幼児期に飴(あめ)を食べるのを我慢できるか」という実験と、長年の追跡調査により、「我慢ができた子のほうが将来高収入を得るようになる」という結論が導き出されています。

 大人になっていくにつれて、どんどん選択すべきことは増えて複雑になり、応用が必要になっていくでしょう。ただ、基本は「今やりたいこと」「今やるべきこと」を選ぶ2択です。

 小さい頃は親からのヒントで選択していくでしょうが、成長するにつれ自分で「やるべきこと」を判断できるようになっていくはずですし、意志もコントロールできるようになっているはずです。

 こうして、小さい頃からやるべきことを要領よく選んで行動する力を培っていけば、その後の人生で「なかなかやるべきことができない人」にはならないのではないかと思います。

著者プロフィールを見る
杉山奈津子

杉山奈津子

杉山奈津子(すぎやま・なつこ) 1982年、静岡県生まれ。東京大学薬学部卒業後、うつによりしばらく実家で休養。厚生労働省管轄医療財団勤務を経て、現在、講演・執筆など医療の啓発活動に努める。1児の母。著書に『偏差値29から東大に合格した私の超独学勉強法』『偏差値29でも東大に合格できた! 「捨てる」記憶術』『「うつ」と上手につきあう本 少しずつ、ゆっくりと元気になるヒント』など。ツイッターのアカウントは@suginat

杉山奈津子の記事一覧はこちら