■「格差問題」の本質を見えなくさせたもの

 ここからは『平成史 完全版』(河出書房新社)に書いた話です。

 中央メディアの論調は、「大企業型」のリアリティーに規定されがちです。例えば、2年前に『定年後』という新書が売れましたが、定年後に「生きがい」のために働くことを考えるような人は少数派です。新卒から定年まで同じ会社に勤め続ける人も、定年後に年金だけで暮らせる人も、3割前後しかいないからです。

 しかし、そういう人たちが一番本を買う層ですし、大手メディアや官公庁に勤めている人だったりします。そういう人たちは、必ずしも下7割をふくめた日本社会全体のリアリティーに詳しいわけではありません。ですから、大手のテレビ局や新聞社に勤めている人たちのリアリティーで日本社会を語ると、現実とずれてくることが多くなります。

 その好例が、格差問題です。90年代末ごろ、大企業正社員に「成果主義」やリストラが導入されるという話が注目されました。これはこれで重要な問題ですが、日本社会全体でいえば上3割の部分の話です。ところが、それが日本社会全体の問題、つまり「統計的にジニ係数が増えている」「非正規雇用が増えている」という話と混同されて語られました。そして、非正規雇用が増えて格差が拡大しているのは大企業正社員が減ったせいだ、といった語られ方がされました。

 しかし実際には、こうした見方は必ずしも正確ではありません。非正規雇用が増えたぶん自営業が減っているといった現実がとらえられなかった。それは、「日本社会の不安定化」は「大企業正社員の不安定化」とイコールなのだ、そもそも日本の大部分の人は終身雇用で停年まで務めるものなのだ、という色メガネで社会を見ていたからなのかもしれません。

 また教育問題では、1999年に『分数ができない大学生』という本がベストセラーになりました。これは大学、しかもいわゆる「偏差値」が高い大学の教授たちの共著ですから、教育界の「いちばん上の部分」の話です。ところがそういう危機感と、教育困難校の学級崩壊とが、「日本の教育の危機」として、混同して語られがちな傾向もありました。

 さすがに2010年代になると、『定年後』と『下流老人』は別の本として売れるようになりました。この点は、2000年代までのように、日本社会のなかの違う部分の現象を区別せずに語っていたのとは違うといえます。「上級国民」「下級国民」という表現も出てきているようです。それだけ、階層社会が固定化しているという認識が広まってきたともいえるかもしれません。

■自民党が強いわけではない

 政治の話に関心のある人もいると思います。ここからは、『私たちの国で起きていること』と『平成史 完全版』に書いたことになります。

 自民党の党員は90年代から減っています。ピーク時の1991年に547万人いたのが、2012年に73万人まで減りました。政権奪回して2018年には110万人まで回復させましたが、ピーク時には到底及びません。

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これはなぜか?