こういう制度的な枠組みのなかでは、持ち家と地域の相互扶助がある「地元型」でもなく、安定した雇用と収入がある「大企業型」でもない人は、貧困に陥る可能性が高い。これが3番目の「残余型」です。私の試算では、「大企業型」が26%、「地元型」が36%くらいで、単純計算では「残余型」が残りの約4割と考えられます。

 残余型の所得はおそらく平均的に低いだろうと思います。ただ全員が低いかといえば必ずしもそうではない。ベンチャービジネスや小企業の社長で、安定はしていないが相当な収入があるという人もいるかもしれません。いろいろな人がいます。とはいえ、概して年金は低いだろうし、国民年金であることが多く、持ち家のない人もいるでしょう。となると、残余型は大企業型と地元型の双方のマイナス面を抱え込んでしまうことになる。国民年金で月5、6万円、持ち家なし、地域ネットワークがなくて、支出も多い――これではとても生きていけません。この人たちは、日本の制度の想定外だった人びとと言えます。

■正社員の割合は減っていない

 過去35年間を見ると、実は、「大企業型」は減っていないことがわかります。俗に、非正規雇用の比率が4割近くになったと言われるのは、正社員が減ったからではなく、労働者全体の中に占める非正規雇用の人が増えたということです。非正規雇用が増えて、その比率が上がっているのは事実ですが、正社員が減っているというのは必ずしも正しくありません。マクロ的にみると、正規従業員はバブル期に増えてそのぶんが2000年代前半に減りましたが、差し引きでいうと1980年代からほとんど変わっていません。

 では非正規雇用が増えたぶん、どこが減っているのかというと、自営業と家族従業者です。自営業が成り立たなくなって非正規雇用が増えている。これが30年間の一番大きな社会的変化の一つだと私は見ています。極端なことを言うと、上の方は安定していて下の方がどんどん不安定化している。これは、所得が低くとも地域の相互扶助がある「地元型」が減り、孤立した状態で所得が低い「残余型」が増えている傾向であるかもしれません。だとすると、社会全体にとって相当不安定なことが起きる可能性があります。

 つまり、正社員は1980年代から総数が変わっていない。正社員のなかでも恵まれた層である「大企業型」の比率も、全就業者の26%前後で、これも1980年代から変わっていない。これが30年間で変わらなかった部分です。

 一方で自営業が減り、地方でも都市部でも地域社会が衰退し、非正規雇用が増えている。そしておそらく、所得が同じ程度であったとしても、地域や家族の相互扶助がないぶん、貧困に陥りやすい人が増えている。これが30年間で変わった部分です。

 30年前でも、終身雇用で右肩上がりの収入のあった人は上層の2割か3割で、社会の多数派ではなかった。30年前にくらべて社会が不安定になったとすれば、上の2割か3割が減ったからではなく、下の7割の内実が、自営業から非正規雇用に変化してきたからだといえます。

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日本の高齢者は昔から働いていた