■一軍からのリクエストに応える準備

「ここまで来ると、当然、結果を追わなければいけない状況になる。そうなった時に一軍のビジョンに沿って、チームの勝利に貢献できる選手かどうか、を見極めるのも大事。例えば、自分自身の特徴を理解し、それをチームに活かせるような選手などですね。

 シーズン終盤まで勝つチャンスがある場合、多くのカードを持っている方が、有利な戦いをできる。だから状況に応じて使える選手を揃えておく必要がある。選択肢が広がることが重要」

 ファーム監督の万永貴司。一軍からのリクエストに可能な限り応えられるよう、選手の選択肢を広げておくことが重要だという。

「一軍から求められる選手というのは、春先とは異なってくる。技術プラスアルファのものが勝負の分かれ目にもなる。もちろん、しっかり調整させ、技術的に高いものを求めるのは変わらない。その中でハートが強い選手は、実力以上のものを出してくれる期待値は高い。ラッキーボーイというか、とんでもないことをやってくれるような選手がいれば、チームに勢いはつく。これは計算できるものではないけど、必ずそういう選手はいる」

■実績のある選手たちも語るファームの重要性

 本来一軍レギュラーでもおかしくない選手も目に付く。ここへ来て一軍へ呼ばれる選手も多く、実際、期待に応えている。

 梶谷隆幸はケガに悩まされ続けたが、夏場から一軍合流。実力を発揮している。

「自分の責任、そう思えるようにもなった。ファーム帯同の理由を、自分以外のせいにしていた時期もあった。でもしっかり現実と向き合って1つ1つ、という気持ちでやれるようになった。キレイごとに聞こえるかもしれない、いい経験をしたと思う。言葉だけでなく必死にやって結果を残したい」

 約3カ月ぶりに一軍合流を果たした倉本寿彦は、熱く燃えている。

「とくに何かを変えたということはない。一軍でもファームでも試合に出た時に最高のパフォーマンスを出せるようにするだけ。ここまでまったくチームに貢献できていない。この大事な時期に呼んでもらったわけだから、その期待にしっかり応える」

 ファームには復帰を目指し、調整をおこなっている選手がいる。実力が格段にアップし、一軍昇格を待ち望むニューカマーも多い。故障者や不振状態の選手が続出したシーズン、ここまで戦えているのは『やりくり』できる選手数が増えたからにほかならない。まさに横浜DeNAベイスターズというチーム全体で日々、一戦必勝で戦っている。

 夏休みも終わり、秋の訪れが囁かれるようになった。しかし遠くからは9月のセミの鳴き声が聞こえる。まだまだペナントレースは続く。梶谷や倉本だけでなく、夢を手繰り寄せるため、男たちは準備万端だ。(文・山岡則夫)

●プロフィール
山岡則夫
1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌『Ballpark Time!』を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、編集・製作するほか、多くの雑誌、書籍やホームページ等に寄稿している。Ballpark Time!オフィシャルページにて取材日記を不定期に更新中。現在の肩書きはスポーツスペクテイター。