「個人で練習をしていたとは聞いていたけど、実戦から長い間遠ざかっていたんで、感覚的に難しいのも仕方がない。少し時間がかかると思うが、試合をこなしていくしかない」と指揮官は彼を庇ったが、本人も焦燥感を募らせたに違いない。その後、18日のJ1・磐田戦、23日の同・鹿島戦に連続出場して着実にパフォーマンスを上げつつあるが、かつて日本代表を率いたヴァイッド・ハリルホジッチ監督が「井手口は素晴らしい」と絶賛していた頃の状態にいち早く戻れるとは言い切れないところがある。

「欧州へ行けば成長できる」と考え、オファーを受けてすぐに新天地の扉を叩く若手日本人選手は増える一方だが、全ての選手が前向きな方向に進めるとは限らない。井手口のケースは顕著な例と言っていいかもしれない。

 最初に赴いたスペイン1部のクルトゥラル・レオネサでは言葉や文化、習慣を含めて適応に苦悩。再起をかけて昨夏に移籍したドイツ2部のグロイター・フュルトでも2度の右ひざ負傷にあえぎ、長期リハビリを強いられた。不運が重なったのもあるが、ハリルジャパン時代に凄まじい輝きを放った選手が足踏み状態どころか、後退とも取られかねない現実に直面することもあり得るのだ。そういうリスクが海外挑戦にはあることを今、改めて再認識すべき時かもしれない。

 逆に、欧州で7年半プレーし、ほぼコンスタントにプレーし続けてきた酒井は強烈な存在感を残している。8月14日のJ登録期限ギリギリに復帰が決まり、17日の浦和レッズ戦でさっそく、左ウイングバックのポジションでスタメン出場した彼はドイツ仕込みの球際の強さと寄せの激しさ、タフな走りとハードワークを随所に見せつけた。酒井も宇佐美同様に「日本の暑さは大きな敵」とは言っていたが、そんな環境面を跳ね除ける力強いパフォーマンスを披露した。

「久しぶりにJの試合に出て正直、球際の部分はドイツと全然違うと感じた。向こうの練習の方がJの公式戦よりプレッシャーがあるかなと。もちろんゲームは緊張感というのがプラスされてるから激しくは感じるけど、人にボールを取りに来る迫力は比べ物にならない。浦和戦で相手が3人がかりで取りに来ても、僕自身はそんなにプレッシャーは感じなかった。それに3人に囲まれても抜け出せばスカスカに空いてきちゃうのがJリーグ。ドイツの場合は1人をかわしても、2人目3人目が来ていて『うわ、全然スペースないな』と感じるから。チームとしてのプレスのかけ方がうまいんだと思う。そういうところの違いはきちんと意識しないといけない」と酒井はあえて苦言を呈したのだ。

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タフに生き抜いてきた酒井高