ファイナルコンサートで熱唱する山口百恵さん (c)朝日新聞社
ファイナルコンサートで熱唱する山口百恵さん (c)朝日新聞社
1980年、披露宴前の記者会見で、花嫁姿のままの山口百恵さんと、新郎の三浦友和さん (c)朝日新聞社
1980年、披露宴前の記者会見で、花嫁姿のままの山口百恵さんと、新郎の三浦友和さん (c)朝日新聞社

 三浦百恵さんが本を出版した。芸能界引退後に取り組んできたキルトの作品集『時間の花束 Bouquet du temps』(7月26日発売)である。数点ながら近影写真も掲載され、本人によるあとがきも。売れ行きは好調で、オリコン週間BOOKランキングでは初登場2位を記録した。

【写真】美しすぎる百恵さんのウエディングドレス姿

 これを機に、芸能界復帰も取り沙汰されているが、はたしてどうだろう。彼女の著書はこれが2冊目で、前作は39年前「山口百恵」名義で出版された自叙伝『蒼い時』。そこにはこんな言葉が綴られていた。

「秋の終わりに、私は嫁ぎ、姓が変わり、文字通り新しい運命に生きる」

「この本は、芸能人・山口百恵としてではなく、一人の生活人・山口百恵のひとつの終決にしたいという、その気持ちから始めたものである」

「多くの人たちの暖かさの中で、私は二十一年の人生に終決を見た」

 結婚と引退によって、それまでの人生に終止符を打ち、新たな人間に生まれ変わると宣言するほどの決意だったのだ。その決意を長年、実践してきたことが彼女を特別な存在にした。

■そして「神格化」へ

 その姿は、他の女性芸能人と比べても際立っている。「普通の女の子に戻りたい」と言って解散したキャンディーズも「普通のおばさんになりたい」と引退した都はるみも、数年後には芸能界に戻ってきたし、最も成功した「ポスト百恵」である中森明菜は絶頂期の寿引退までは継承できなかった。同じ中三トリオの桜田淳子や森昌子は私生活で迷走した印象を否めないし、芸風や生き方に似たところもある安室奈美恵や浜崎あゆみ、宇多田ヒカルにしても、離婚などでいろいろ苦労することになる。

 一方、百恵さんの場合、引退直後に何度か友人たちの歌の詞を書いたりもしたが、それ以外は徹底して、俳優の妻及び息子ふたりの母としての生活を貫いてきた。そこにはある意味、芸能界やマスコミへの不信が影響している。年齢にそぐわない官能的な歌をうたわされたり、非嫡出子であることを暴露されたり、身に覚えのない熱愛を書かれて裁判を起こすことになったり、大嫌いな実父が雑誌を利用して絡んできたりもした。そんな経験を通して、彼女にとってはむしろ、訣別してもかまわない世界になっていったわけだ。

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宝泉薫

宝泉薫

1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など

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