チームスポーツに参加することを選ぶかどうかは、そもそも性別や人種によって違いがあります。しかし、そういった違いを調整して計算しても、うつや不安障害と診断された経験がある割合は、統計的に明らかな差があることがわかりました。

 この研究では、野球やサッカーだけでなく、ダンスや水泳、テニス、陸上競技もチームスポーツに含まれています。学校で他の友人たちと関わりながらスポーツに参加することにより、自己肯定感が高まったり、社会的に受け入れられていると感じたり、学校への所属感を感じたりすることが、精神的健康へとつながっていると論じられています。

 子どもにおける運動とメンタルヘルスの関係を示唆する研究は、他にもあります。

 2012年にスペインのスポーツ教育の研究者らが発表した論文では、6歳から17歳の子どもや中高生690人を対象に、上半身と下半身の筋肉の強さを測定し、健康に関するアンケート結果との関連を調べています(※2)。上半身の筋力はバスケットボールを投げるテスト、下半身の筋力は立ち幅跳びで測定しました。すると、筋力が平均以下のグループでは、メンタルヘルスの状態がオッズ比にして1~3倍程度悪く、頭痛や腹痛などの不調があるオッズも1.4倍、また、タバコやアルコールを摂取しているオッズも2~4倍程度高かったのです。ちなみに、学業成績との関係も、調べられていました。一般には、筋力や運動が学業成績と関連するかどうかはまだ意見が分かれているようです。しかしこの研究では、筋力が低いグループでは、学業成績が悪いオッズも約1.8倍と高まっていました。

 これらの研究結果は、チームスポーツや筋力とメンタルヘルスの関係を調べたもので、因果関係まではわかりません。しかし大人では、有酸素運動を行うことでストレスや不安が減り、メンタルヘルスが改善することがわかっています。科学的な証拠は十分ではありませんが、子どもでも、運動がメンタルヘルスによい影響を与える可能性はありそうです。

 また、これまでの研究のほとんどは中高生を対象にしたもので、幼児を対象にしたものはないようです。しかし、先にご紹介したように、6歳以上を対象としたスペインの研究で、筋力とメンタルヘルスが相関することがわかりました。このことを考えると、6歳になるまでの運動習慣も、ある程度影響する可能性はあると思います。

 梅雨の季節は、どうしても外遊びの時間が減ってしまいがちです。わが家の息子はまだ幼児ですが、家の中ではエネルギーが有り余っているようで、どうやって子どもに適度な運動をさせてあげようかと悩みます。梅雨が明けて本格的な夏に入れば、今度は熱中症が心配です。雨の合間に、また多少の雨ならレインコートに長靴をはかせて、今のうちに外遊びに連れ出してあげれば、子どもも親もよい運動になるかもしれません。

(※1)Easterlin MC, Chung PJ, Leng M, Dudovitz R. Association of Team Sports Participation With Long-term Mental Health Outcomes Among Individuals Exposed to Adverse Childhood Experiences. JAMA Pediatr. 2019.

(※2)Padilla-Moledo C, Ruiz JR, Ortega FB, Mora J, Castro-Pinero J. Associations of muscular fitness with psychological positive health, health complaints, and health risk behaviors in Spanish children and adolescents. J Strength Cond Res. 2012;26(1):167-73.

○森田麻里子(もりた・まりこ)/1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表

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森田麻里子

森田麻里子

森田麻里子(もりた・まりこ)/1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産し、19年9月より昭和大学病院附属東病院睡眠医療センターにて非常勤勤務。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表

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