――吃音のせいで話すのがいやになる、ということでしょうか?

富里:吃音が出るのを嫌がるあまり、話すこと自体に不安や恐怖感を抱いてしまう人もいます。これは医学的には、社交不安障害という病気を合併した状態といえます。社交不安障害は、人前で話すことに対して不安や恐怖感を抱き、そうした場面を避けがちになる状態のことで、定義上は精神疾患です。思春期以降の吃音において、これが二次疾患として吃音のために引き起こされることが多いとされます(※)。

 もちろん最終的には吃音が治り、完全になくなるのが理想的ではあります。しかし次に考えなければならないのは、治らなかったときに社交不安障害が合併しないようにどうするか、ということです。

 これは長期的な話なので、社交不安障害を確実に予防する方法というものはありません。ただ、たとえば言葉につまりながらも楽しくお話ができた、という体験を積んでいくことが、コミュニケーションに対する障壁をつくらないという意味では、大事ではないかと思います。そのために親御さんや学校など、周囲の理解を得ていく必要があるというわけです。

 一例を挙げると、学校で吃音などを理由にからかわれたり、いじめられたりした経験が社交不安障害を引き起こすということは、科学的に示されています。そのためそういうところは、医師からの診断書を使って配慮を求めるなどの必要があると思います。

――お子さんの吃音で悩む親御さんは、まずどこに相談すればいいですか?

富里:お子さんの場合は、かかりつけの小児科や療育センターです。ただ吃音をどれだけ専門にしているかは、医師や施設によります。ですので、まず電話で「吃音を診ていますか?」と問い合わせたうえで受診するようにしましょう。

 吃音はひとりで抱えないでください。吃音なんて自分だけ、自分の子だけなんじゃないか、ほかにこんな人はいないんじゃないか、そもそもしゃべり方なんかに悩んでしまって恥ずかしい……。いろんなことを考えてしまい、ほかのことを後回しにしてしまいます。

 しかし、吃音を持っている人はたくさんいるのです。冒頭でお話したように、100人に1人というのはかなりの有病率です。またここ数年、発達障害などの「見えない障害」に社会が注目し始めたことで、そうしたものへの理解も進みつつあります。徐々に情報も出始め、手が差し伸べられていると思います。そうした医療・相談機関を頼ってほしいです。(文/白石圭)

◯富里周太(とみさと・しゅうた)医師/国立成育医療研究センター・耳鼻咽喉科。映画「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」吃音監修。

(※)Blumgart E, Tran Y and Craig A: Social anxiety disorder in adults who stutter. Depress Anxiety, 2010
成人の吃音当事者のうち、約40%が社交不安障害といわれている。