弁護士は、不正に融資を引き出した案件は、物件の入居率が高く、破産したりローン返済が困難になったりした事例はないと説明し、こうも主張した。
「本件顧客に損害が生じていない。実際に損害を受けた被害者は存在しない。社会的な影響も大きくない」
被害がないのだから、業務停止命令はやり過ぎだ、ということだ。
顧客の要望があれば、不動産を買い取っている、ということも明らかにした。
不正が報道されたせいで、銀行との取引が停止。販売自粛を余儀なくされ、株価の大幅下落など、十分な社会的制裁を受けたとも訴えた。そのうえで、
「業務停止となれば、当社の存続は極めて厳しい。新たな資金調達は困難になる。顧客の保護もできなくなる。重大な結果をもたらす」
業務停止となって会社が傾き、顧客の保護ができなくなっても知らないぞ、と言わんばかりの主張だ。
国交省が近く出す行政処分がどう出るかは、答えを待つしかない。
■手ぬるい不正業者への対応
ただ、銀行取引が困難となるのは、銀行を欺いて融資を引き出す不正を組織的に行い、自ら不正をただすこともできなかった結果に過ぎない。株価の下落も同じ。不正を犯して報道のせいにするのはお門違いだろう。
不正な融資が好業績を支えていると知らなかった株主や、融資を引き出された銀行が「被害者」であるのは論をまたない。不正と知らされず、割高な物件を買わされた顧客にも同じことが言えるだろう。
タテル側は、スルガ銀の不正融資が巨額で、返済に行き詰まった客も数多いのに、行政処分は業者2社への業務改善命令にとどまっていることを引き合いに、「業務停止命令は重すぎる」とも主張した。
理屈としては、分からないでもない。
しかし、スルガ銀の融資ではシェアハウス投資だけで70社超の業者が不正に関与。1棟マンション向けもあわせれば不正業者は軽く100を超える。多数の業者の実績と、タテル1社の不正の規模や深刻さを比べてもあまり意味はない。
むしろ、預金通帳や源泉徴収票を偽造し、銀行をだます不正が露呈しても、処分を受けた業者は2社だけで、業務停止や免許の取り消しには至らない。そのことのほうが普通の人には驚きであり、問題ではないだろうか。
書類を偽造して融資を不正に引き出したからと言って、業務停止はやり過ぎだーー。そんな考えがまかり通ること自体、不正業者への国交省の対応が手ぬるいツケだと言わざるを得ない。(朝日新聞記者・藤田知也)