治療では、痴漢につながる「空き時間」をつくらないような24時間のスケジュールを立てて実行するのが基本です。しかし、Aさんはあるとき、駅のホームをうろついてしまいました。これは痴漢の下見といえます。これを、患者同士で話し合う治療の場であるグループセラピーで告白しました。すべて正直に話すのがルールだからです。なぜそのような時間ができてしまったのか、をみんなで話し合って、スケジュールの「甘さ」を修正しました。

 1日のスケジュール管理をはじめ、性依存に対して危なげなかった日には青色シール、駅のホームをうろつくようなルール破りがあったら黄色シール、危うく痴漢をしてしまいそうだった日は赤色シールを、カレンダーに貼っていくのも治療の一環です。性依存の治療経過はなかなかわかりづらく、治療効果の判定も難しいのですが、これなら「初めは黄色や赤色シールが目立っていたのに、青色シールが増えてきた」となれば「よくなっている」と判断できるのです。患者さん自身でもわかるため、治療への意欲、さらには自尊心の回復につながります。

 Aさんは、性依存治療の最低限の目安となっている2年を過ぎた現在も、半年に1回ほどグループセラピーを受けるために通院しています。痴漢で家庭も仕事も失ったものの、それ以上に問題を深刻化させることなく、再就職をはじめ、新たな人生を歩き始めていらっしゃいます。

 性犯罪全般の再犯率は、一般に思われているほど高くないのですが、痴漢の性犯罪再犯率は、性犯罪全体のなかでは比較的高く、刑罰を受けただけでは再犯をなかなか止められません。しかし、Aさんのように、適切な治療を受けた人では明らかに再犯率が低下しています。再犯を防ぐことは、新たな被害者を出さないことでもあります。だから、痴漢を性依存の一つとして「治療」につなげることが大切なのです。

(文/近藤昭彦)