写真:gettyimages
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※「3回の痴漢逮捕で離婚 『性依存』の会社員が取り組む治療と再スタート」という見出しで6月7日11時30分に配信した本記事において、性依存について説明してくださった筑波大学人間系心理学域教授・原田隆之氏が当該者のごとくとられるような顔写真の配置になっておりました。原田教授にご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします。

 ストレスに弱く、そのはけ口を性的な行動に求めてしまう「性依存」。治りやすい人と治りにくい人の差はどこにあるのか。刑務所での受刑者への治療経験をもとに、現在も精神科クリニックで治療にあたっている筑波大学人間系心理学域教授・原田隆之氏に、痴漢治療のケーススタディーを紹介してもらった。

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 依存症全般に、失うものは何もないといった生活環境にある人や、精神科疾患をはじめほかの疾患をもった人は治りにくい傾向があります。治療を続けるモチベーションの維持が難しく、治療への理解度が不足しがちだからです。

 これらにあてはまる患者さんの多くは、そもそも治療を始めることすらなく、たとえ治療を始めても途中で通院されなくなります。その後の追跡は難しいのですが、痴漢等の場合、きちんと治療を受けた人に比べて再犯率が高いのは明らかです。

 一方で、失うもの、なくしては困るものがある人は、治そうとする意欲が強く、実際に高い治療効果が得られています。会社員だったAさん(45歳)は、痴漢で3回目に逮捕されたときに離婚となり、以後、子どもにも会えなくなりました。仕事も失っていました。このときは執行猶予がついて刑務所に入ることはなく、弁護士の勧めで私が治療をおこなっているクリニックを受診されました。

 性依存の治療は、痴漢などの性的な問題行動をやめることがゴールではありません。問題行動をやめ、患者さんがどのような人生を再スタートさせたいのか、までを明らかにしつつ治療を進めます。

 Aさんの場合、話し合いのなかで、「もう一度、子どもに会いたい」「新しい仕事も始めたい」といった、再スタート後のプランを引き出せたことで、治療に前向きになってもらえました。子ども、仕事がAさんにとっての「なくしては困るもの」だったのです。治療に前向きになるには、犯罪者、人生の落伍者などとしてズタズタになった自尊心を取り戻すことも重要です。

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治療効果が「見える」カレンダーを活用