出社時間を早め、退勤時間を繰り上げて、保育園のお迎えもできるようにした。

「長女の時の育休は、心の半分で『これで同期と差がつく』と思っていました。でも次女のときには、迷いはなかった。子どもが一番という意識がだんだんついてきたんです」

 しかし三女が生まれた2015年の春、育休を申請した浩久さんに、上司は「何回取るつもり?」と尋ねた。忘れがたい一言だった。その年の秋、第4子の妊娠が判明した。

「この先、どうしようか」。何度も夫婦で話し合った。最大限、仕事の時間を削っていたが、家事と仕事で互いに疲れ、家庭はギスギスしていた。

 このとき浩久さんは、課長昇進が目前。さらに忙しくなり、家が回らなくなるのは明らかだった。一方、浩久さんには別の気持ちも芽生えていた。子どもとの生活の楽しさだ。

「このまま企業人として働いていていいのか」

 自治体のイクメンスクールや地域の子育て支援の活動に参加し、知り合った地域の子育て支援NPO団体に誘われて、転職を決意した。

 通勤や勤務時間が短くなり、1日約3時間、家にいる時間が増えた。大切にしているのは夜の「ながら夫婦の会話」。「何があった」という業務連絡だけではなく、その都度、自分の状況を相談する。

 浩久さんの給料はこれまでの3分の2に減ったが、付き合いの飲み会はなくなり、スーツ代もゼロ。休暇は県内のキャンプ場に足を運ぶようになった。

副業などで工夫して、5年間で収入は元に戻す」と宏美さんに宣言している浩久さん。

 今は保育士の資格取得に向けて勉強中。その分、手が回らない家事は宏美さんが担う。「攻守交代」は柔軟にしていくつもりだ。

「できる方ができる範囲でやれば良い。2人とも同じレベルで家事も育児もできるので、心配ありません」

■夫婦の役割「交代」した30代IT社員女性

「妻が稼ぎ、夫が家を守る」という選択をした夫婦もいる。

 東京都文京区で娘2人を育てる高浜久美子さん(31)はIT企業の総合職で、フルタイムで働く。

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結婚反対の父に「女が養うからいいんだよ!」