服装や言葉遣いでチャラく見せてはいるが、とにかく2人ともやたらと真面目だ。そうなっている理由の1つは、2人とももともと組んでいたコンビの相方が不祥事を起こし、解散を余儀なくされた過去を持っていることだ。彼らは相方がトラブルを起こしたことで、苦い挫折を味わっている。だから、ほかの芸人と比べても人一倍真面目な考え方になるのだろう。

 彼らは「コンプライアンスゴリ守り芸人」を自称している。暴言を吐いたり不祥事を起こしたりするのは絶対にNG。それは彼ら自身が誰よりも身にしみて分かっていることなのだ。

 さらに言うと、彼らはどちらももともとのコンビでは「キャラが薄くて地味な方」だった。そんな彼らは新しくチャラ男のキャラを身にまとい、結成4カ月で「ゴッドタン」に引っ張り出された。その時点でキャラが仕上がっていないのも無理はない。

 ただ、そうやってスキだらけのキャラを打ち出して必死になってがんばっている感じこそが、EXITが多くの人に愛される要因になっている。「じゃない方芸人」だった彼らが背伸びして「チャラ男」を演じている姿が、何とも健気で好印象を与えるのだ。

 兼近は実家が貧乏で苦労していたことでも知られている。子供の頃には極貧生活を送っていて、空腹時にはティッシュにマヨネーズをかけて食べていたこともあったという。また、クリスマスの日にもプレゼントをもらえず、「サンタです。来ました」という手紙だけを受け取っていた。クリスマスケーキを買うお金もなかったため、夜空の星の輝きをろうそくの光に見立てて、空に向かって息を吹きかけていた。

 そんな兼近は、家計を支えるために中学卒業後は定時制高校に通いつつ、朝は新聞配達、昼は建設現場で働いていた。だが、それだけではお金が足りなかったため、高校を中退して仕事に打ちこむことになった。

 でも、そんな貧乏エピソードを話すときにも、兼近はひたすら明るい。コンビ解散を経験した苦労人でもあるのだが、決して後ろ向きにならず、いつでも明るく前向きに考えられるのが兼近の魅力だ。

 芸人がキャラを背負ってから脱がされるまでのスパンは年々短くなる傾向にあるのだが、ここへ来てついに「ほぼ同時」という異例の事態が起こった。それが人気爆発のきっかけになったのは、素の状態の彼らが人間的な魅力にあふれていたからだろう。

 底抜けの明るさと根っからの真面目さのハイブリッドで突き進むEXITは、単なる「チャラさ」の向こう側にある「ネオチャラ」の体現者である。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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