感染症は微生物が起こす病気である。そして、ワインや日本酒などのアルコールは、微生物が発酵によって作り出す飲み物である。両者の共通項は、とても多いのだ。感染症を専門とする医師であり、健康に関するプロであると同時に、日本ソムリエ協会認定のシニア・ワイン・エキスパートでもある岩田健太郎先生が「ワインと健康の関係」について解説したこの連載が本になりました!『ワインは毒か、薬か。』(朝日新聞出版)カバーは『もやしもん』で大人気の漫画家、石川雅之先生の書き下ろしで、4Pの漫画も収録しています。
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■納豆
納豆は大豆を蒸したのち、納豆菌による発酵で作る。漬物のときと異なり、関与する微生物はBacillus subtilis(natto)の1種類だけだ。これが枯草菌の一種、納豆菌だ。
納豆製造に使われる納豆菌株は三つあるらしい。そのうちよく使われるのは宮城野株と呼ばれるものだ。B. subtilisはどこにでもいる菌で、微生物学の実験にも使う。でも、こういう普通の枯草菌(B. subtilis)では納豆を作ることはできないのだとか。ちなみに、似たような菌にBacillus anthracis(炭疽<たんそ>菌)がある。
こちらは非常に致死率の高い炭疽という病気の原因になる菌で、2001年に米国でのバイオテロに人為的に使用された。そのときのてんまつは『バイオテロと医師たち』(集英社新書、筆名:最上丈二)にまとめたので、興味のある方はそちらを参照してほしい。似たような名前の微生物でも人に対する影響は全く異なるのだ。
たいていの発酵食品は長い熟成期間をおくのが特徴だが、納豆では大豆発酵に1日、発酵後の低温熟成に1日で合計2日のみで完成してしまう。うちの母親も、昔よく自宅で納豆を作っていた。味のほうは……お店で買ったほうがおいしかったかなあ。外国にもB. subtilisを用いた「納豆様食品」はあるそうだ。アジアが中心で、例えば中国の豆鼓(とうち)などだ。