じつは校長がこのことを知ったのは、事件当日の深夜、警察から連絡が入ったことによる。動画を見た人から警察に通報があり、警察が学校に連絡を入れて、事態が発覚したのである。つまり、暴行を受けた教師も、それを目撃した生徒たちも、誰もそのことを学校に報告することはなかった。

 日が明けて、当初の報道では、学校側は警察に被害届を出さない方針ということであった。被害に遭った教師自身の意向もあって、学校側で生徒を指導することに決めていたという。

 ところが同日、医師により全治一日の診断が教師に下され、また警察とも話し合いがおこなわれ、再度学校内で対応が検討された結果、被害を受けた教師は夕刻に被害届を警察に提出した。こうして生徒は、同日夜に傷害容疑で逮捕されることとなった。生徒は翌週には釈放され、自主退学というかたちで学校を去ることになった。

■指導力がないから蹴られて当然!?

 この事案が話題になっているさなか、私の知り合いの教員が、同僚のこんな発言を耳にしたという――「あれは講師が悪い。だって、もう9月にもなるのに、生徒との人間関係がつくれていないんだから。自分だったらこんなことになっていない」と。

 周りの教員もその見解に賛同していたようで、あそこまで授業が荒れていること自体に問題があり、講師の資質が問われるべき、という空気だったという。

 じつは私もTwitterで同じように、教員の立場にある者が、その暴行被害に遭った先生を非難するつぶやきを、いくつか見かけた。

 その一つは、「こんなに騒ぎ立てるべきことじゃない。時間給で生活が厳しい非常勤講師の立場からすると、十分な給料やボーナスをもらっている正規採用教員は、しっかりと教育にあたるべき。こうなったのも、そもそも授業が成立してなかったのでは」といった旨の内容であった。

 正確には、暴行を受けた先生は「講師」と報道されているから、けっして正規採用ではない。そのことは置いておくとして、教員は十分な賃金を受け取っているのだから、暴行を受けたとしても、自分の授業力の問題としてちゃんと責任をとるべきだというのだ。

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