さらに14年のイギリスの研究では、母乳栄養とぜんそくの関係について調べています。117の研究をまとめて解析したところ、オッズ比にして0.78と、母乳栄養の赤ちゃんの方がぜんそくが少ないという結果になりました。しかし、この効果は0~2歳で一番強く、その後は効果が薄れていってしまうこともわかりました。

 ママがぜんそくで赤ちゃんがアトピーの場合には、母乳栄養の方がリスクが高まるという研究もあり、ぜんそくと母乳栄養の関係についても、意見は分かれています。

 母乳栄養と食物アレルギーの関係については、あまり多くの研究はないようですが、牛乳アレルギーを減らすかもしれないという研究はあります。14年に台湾から発表された研究では、4カ月以上完全母乳栄養で育った赤ちゃんと、それ以外の赤ちゃん、約200人におよそ6カ月ごとに血液検査を行っています。血液検査では食品に含まれるタンパク質に感作されているかどうかを調べました。すると、牛乳のタンパク質に感作されているのは、1~2歳の間では母乳栄養の子の方が少なく、オッズ比にして0.2となることがわかりました。血液検査で感作されているとわかっても、食べたときに症状がでるとは限らず、それだけで食物アレルギーを診断することはできません。ですから、この研究から母乳は牛乳アレルギーを減らすとまでは言えず、減らすかもしれない、という結論になっています。

 このように、母乳栄養とアレルギー性疾患の関係については、まだはっきりしない部分も多くありますし、その人の体質によっても違う可能性もあります。母乳のアレルギー予防効果については、あるともないとも言えないというのが正確なところだと思います。

 とはいえ、ここまで研究がなされていても結論がはっきりしないということは、予防効果がもしあったとしても、それほど大きな効果ではないと考えられます。母乳は確かに良いものですが、十分なビタミンDや鉄分が入っているという点ではミルクに栄養的なメリットがあります。母乳の出具合やママのライフスタイルによって、ミルク育児を選ぶご家庭もたくさんあると思いますが、アレルギー予防効果がどうであるかにかかわらず、そこに罪悪感を持つ必要は全くありません。母乳でも、ミルクでも、どちらでも大丈夫。自信を持って、育児をしていってくださいね。

◯森田麻里子(もりた・まりこ)
1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表

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森田麻里子

森田麻里子

森田麻里子(もりた・まりこ)/1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産し、19年9月より昭和大学病院附属東病院睡眠医療センターにて非常勤勤務。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表

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