森田麻里子(もりた・まりこ)/1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表
森田麻里子(もりた・まりこ)/1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表
母乳でも、ミルクでも、どちらでも大丈夫(写真はイメージ:Gettyimages)
母乳でも、ミルクでも、どちらでも大丈夫(写真はイメージ:Gettyimages)

 日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は、自身も1児の母である森田麻里子医師が、「母乳栄養とアレルギー性疾患の関係」について「医見」します。

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 先月、厚生労働省が発表する「授乳・離乳の支援ガイド」が、12年ぶりに改定されました。これは、日本中の保健医療に関わるプロが、一貫した内容で妊婦さんや子どもに支援を行っていくためのものです。この改定については「母乳にアレルギー予防効果はない」という見出しで報道されていて、ホッとしたママ・パパもいらっしゃったのではないでしょうか。一方で、母乳はアレルギーを予防する、という意見を目にしたことがある方は、どちらが本当なのか、疑問に思われたかもしれません。

 私としては、母乳でもミルクでもどちらでも構わないと思っています。ミルク育児のママ・パパを追い詰めたりはしたくありません。でも、それと同時に、母乳にアレルギー予防効果はないと断定してしまうのは、ちょっと思い切った表現だなとも感じました。

 実際に発表された資料を見ると、報道では大きく取り扱われていた母乳栄養とアレルギーの関係については、実は本文には書かれていません。注釈として、「システマティックレビュー(森田注:研究デザインの種類の一つ、文献を調査して分析するもの)では、6カ月間の母乳栄養は、小児期のアレルギー疾患の発症に対する予防効果はないと結論している」という記載がなされています。

 残念ながら、このシステマティックレビューが具体的にどの研究のことなのかは、記載されていませんでした。そこで、今回は母乳栄養とアレルギー疾患についての研究をいくつかご紹介したいと思います。

 まずひとつは、2009年に台湾から発表された論文です。母乳栄養とアトピー性皮膚炎について21個の研究をまとめて解析したところ、生後3ヶ月まで完全母乳栄養だった赤ちゃんと、それ以外(ミルクまたは混合育児)の赤ちゃんで、その後のアトピー性皮膚炎の発症割合に明らかな差はありませんでした。一方で、完全母乳栄養の赤ちゃんとミルク育児の赤ちゃんを比べると、オッズ比にして0.7と非常に大きな差ではないものの、母乳栄養の赤ちゃんの方がアトピー性皮膚炎が少ないことがわかりました。

 しかし、母乳栄養がアトピー性皮膚炎を抑制するという研究もあれば、そのような効果はないという研究、さらに悪影響があるという研究もあります。それらを総合して考えると、母乳かどうかはあまり関係ないのだろうという意見が多いようです。

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森田麻里子

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森田麻里子(もりた・まりこ)/1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産し、19年9月より昭和大学病院附属東病院睡眠医療センターにて非常勤勤務。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表

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