「結局、子どものいる社員はいらないということなのだろうか。育児休業を取りたい、看護休暇をとりたいという当然のことを主張できないことに納得がいかなかった。会社を辞めるのは簡単だけれど、声をあげなければ何も変わらない」

 個人で会社と交渉することに困難さを感じた明子さんは、社内で労働組合を結成した。団体交渉を行うと、明子さん含め妊娠中・育休中に契約社員になれなかったアルバイト社員3人がそろって契約社員になることができた。時給については、最終的に明子さんだけが下げられずに済んだが上司は「あなただけ特別。ほかの人には内緒にして」と囲い込んだ。明子さんは同僚にも時給について主張するよう促したが、同僚はしり込みして泣き寝入りしてしまった。

 地方の雇用情勢は都市部より深刻だ。子育てしながら働くことのできる職場が限定的では、正社員は夢のまた夢という現実もある。正社員として働きながら子育てすることに限界を感じて非正規雇用を選ばざるを得ない女性は少なくない。しかしそれは、出産を機に女性が「中年フリーター」になることを意味する。

 総務省「就業構造基本調査」(2017年)によれば、35~54歳の非正規雇用の女性のうち、扶養に入るための「就業調整していない」という人数は実に約414万人に上る。この統計から、家計を支える戦力になっている非正規の女性が多いことがうかがえる。かつて、2001年に発表された「国民白書」で衝撃的だった、当時の若年層(15~34歳)の男女合わせたフリーター数が417万人という数字に匹敵する。女性の非正規雇用の問題は結婚が隠れみのにされがちだが、それは見えない貧困ともいえ、その層のボリュームも大きい。子育てを理由に条件が切り下げられていくような既婚女性の非正規雇用の実態にも、改めて目を向ける必要がある。(ジャーナリスト・小林美希)

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小林美希

小林美希

小林美希(こばやし・みき)/1975年茨城県生まれ。神戸大法学部卒業後、株式新聞社、毎日新聞社『エコノミスト』編集部記者を経て、2007年からフリーのジャーナリスト。13年、「『子供を産ませない社会』の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。近著に『ルポ 中年フリーター 「働けない働き盛り」の貧困』(NHK出版新書)、『ルポ 保育格差』(岩波新書)

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