労働局から「会社に話をしてみたほうがいい」と育休制度のパンフレットを渡された明子さんは早速、上司にそのパンフレットをみせてみた。すると、上司は「本社判断になります」と言って身構えたが2週間後、「育休を取ることができる権利があることが確認できました」と、明子さんの育休取得が認められた。

いったい、どれだけの非正規雇用の労働者が育児休業を取得できているのか。育休取得者そのものの実数がないため、育児休業給付金の初回受給者数を見てみたい。2017年度は有期雇用以外のいわゆる正社員が約33万人いるのに対し、有期雇用はわずか1万2000人しかいない。非正規労働でも育児休業が認められた2005年度の約2200人よりは増えてはいるが、法改正で要件が緩和されても育休取得者全体のうち非正規雇用労働者が占める割合はたった3%程度でしかないのが現状だ。20~40代の働く女性のうち正社員と非正社員はおよそ半々であることから、非正規雇用にとって育休を取るハードルがいかに高いかが分かる。

 明子さんが育休に入ると、会社は人材確保のため「アルバイトを契約社員に“上げる”」という方針を打ち出していたが、明子さんにその連絡はなかった。育児休業が明けて職場に戻ると、他のアルバイト社員らは契約社員に変わっていた。契約社員は出産祝い金が支給され、夏休みや冬休みも有給でとることができるがアルバイトにはそれらはない。

 8時間フルに働く社員より1日6時間の育児短時間勤務の明子さんの成績が良く、社内で2位の成績だったが、年末年始に保育園が閉まっている時に出勤できないと「欠勤した」として、時給が100円も下がった。妊娠中で悪阻(つわり)がひどくても成績は5位を保っていた。しかし悪阻で3日休むと、上司からは「悪阻で休んでも欠勤は欠勤」「いっぱい休んだでしょ」と言われ、1260円あった時給は900円にまで落ち込んだ。通勤するためバスに乗っただけでも吐きそうな頃、「血も涙もない会社だ」と感じた。

次のページ
母親の権利は法律で守られているが、職場は無視