男女雇用機会均等法と労働基準法には「母性保護規定」がある。男女雇用機会均等法では、妊娠や出産による不利益な取り扱いを禁じているため、明子さんが悪阻で休み時給を下げられたことは、不利益な取り扱いといえる。また、労働基準法では、妊産婦が請求した場合、事業主は軽易な業務に転換させる、時間外労働や休日・深夜労働を免除するなどの対応をしなければならない。

 こうした母性保護規定が法にあっても、まるで無法地帯。明子さんの子どもが急に熱を出した時も休むと時給が下がった。「看護休暇が使えるはずだ」と主張しても「そんな制度はない」とはね返される。それにも負けずに「看護休暇は国の制度だ」と食い下がるとやっと看護休暇を利用できた。明子さんが、「育児中の社員の時給を下げるのはおかしいのではないか」と抗議すると上司は「欠勤して周りがどれだけ迷惑していると思うの」と冷たく、「子持ちの社員は評価されないんだ」と落胆した。

 ある日、上司が子育て中の社員を集めたかと思うと、「シフトを固定するので、今日から時給を下げます」と説明し始めた。「このコールセンターは365日営業しています。土日祝日が一番忙しいのだから、休日に出勤する人とできない人が同じ時給では平等でない」ということが理由だった。

 時給が100~200円下がることになり、単純計算で月1万円以上の収入が減ってしまう。日曜は保育園が開いていないため、仮に出勤したくてもできない状況だ。そして、たとえ営業成績が良くても土日に出勤しているかどうかが判断基準となって自動的に時給が切り下げられ、明子さんはじめ子育て中の社員は一様に納得がいかなかった。

 さらに、「子育て中の社員は平日に休むな」というお達しが出された。上司は「今までが特別な配慮だった。これが普通でしょ」とにべもない。出産前、明子さんの収入は1日8日労働で月給20万円だったが、今は1日6時間勤務で月15万円。ここからまた賃金ダウンしてしまう。

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見逃されている既婚女性の非正規雇用問題