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子育てを見越して働き方に融通の効くコールセンターに転職したのに、まさかマタハラに遭うなんて」――。

 想定外のマタハラを受けたという大野明子さん(仮名、38歳)は、営業成績が良くても時給を下げられ、納得がいかない。

 東北地方で生まれ育ち地元の専門学校を卒業後、明子さんはアパレル店舗で販売のアルバイトをしながら資金をためてスペインに留学。帰国後、憧れていた外資系の有名アパレルが地元に出店することを知り、採用試験を受けると正社員として働き始めることとなった。

 接客が好きでなった職業。販売員からスタートして最終的にはマネージャーに昇格し、やりがいを感じながら過ごす日々を送った。ただ、結婚が視野に入った2011年、「アパレル業界にいる以上、土日祝日も仕事でハードワーク。子どもができた場合を考えて、時間の融通が利く仕事に転職しよう」と決意。当時、地元の有効求人倍率は正社員が0.4倍を下回り、常用的パートでも0.8倍を下回るという厳しい状況だったが、コールセンターで非正規雇用の職を得た。

 コールセンターは通信大手の下請けで、インターネットの使い方を有料でサポートする契約を結ぶことが明子さんの主な仕事となった。正社員は幹部だけ。他は非正規雇用で、「時給アルバイト社員」と「月給固定給契約社員」という2つの雇用形態があり、明子さんは時給アルバイト社員として働くこととなった。

 そのうち、職場ではアルバイトの同僚3人に加えて契約社員2人が同時に妊娠した。明子さんが育児休業の相談をすると上司は「アルバイトの社員が出産する時は一度退職して、産後にまた戻ってもらいます」と言う。明子さんは「なんでこんな扱いなのだろう」と疑問を感じ、行政の相談窓口(労働局)に相談してみると、育児休業を取ることができると太鼓判を押された。

 非正規雇用の育休が認められたのは2005年度。その後、育児介護休業法は何度かの改正を経て2016年の改正からは要件が緩和し、非正規雇用でも1年以上、同じ職場で働いていて、子どもが1歳6か月になるまでに労働契約が満了することが明らかでない場合に育休を取ることができることとなった。それまでは、子どもが1歳以降も雇用が継続される見込みがあることが求められていたため、「先のことは分からない」と、非正規が育休を取るには厳しい状況だった。

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小林美希

小林美希

小林美希(こばやし・みき)/1975年茨城県生まれ。神戸大法学部卒業後、株式新聞社、毎日新聞社『エコノミスト』編集部記者を経て、2007年からフリーのジャーナリスト。13年、「『子供を産ませない社会』の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。近著に『ルポ 中年フリーター 「働けない働き盛り」の貧困』(NHK出版新書)、『ルポ 保育格差』(岩波新書)

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非正規雇用は育休が取れない