シャージャラル国際空港に着いた。昼ごろだった。今回もそうなると思っていた。

「はじまるぞ」

 と覚悟を決めて、ターミナルを出て、柵のほうに視線を向けた。

 少ない……。

 柵の隙間から腕を差し入れ、盛んに手を振る男たちが激減していた。20~30人といったところだろうか。

 なんだか勝手が違う。柵の出口から外に出た。誰も声をかけてこない。僕の容姿から、金にならない客と見られたのだろうか。運転手たちは、次々に出てくるほかの客に視線が向いている。

 なんだか寂しかった。

 しかたなく、ターミナル前の広場をとぼとぼ歩いて、空港出口に向かった。そこにやってきたCNGを停め、運賃を交渉する。なんだか普通のアジアの空港になっていた。バングラデシュはそれだけ豊かになってきたとうことか。せっかく力をこめた下腹の力が、穴の開いた風船のようにしぼんでいった。

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下川裕治

下川裕治

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

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