世界の1位となり、誰からも標的とされる地位に立つ彼女は「今や、誰もが私のプレーを知っていることを理解している」と言う。

「18歳や19歳の頃の私は、まだあまり知られておらず、それがアドバンテージにもなった。でも今は、私の動画はどこでも誰でも見ることができる」

 その事実を受け止めたことが、彼女に、新コーチという新たな声の導入を決意させた一因でもあった。

「武器庫の中に、ハードヒット以外の武器も加えなくてはいけない」

 それが、今の彼女が集中的に取り組んでいることだという。さらには最大の武器であるフォアハンドも、新コーチの助言により改善中だ。

「大きく振りすぎなので、もう少しテイクバックを小さくして、コンパクトに振るようにアドバイスされた。お陰で良くなってきていると思う」と手応えを口にした。

 成長の足を止めたらその途端に、ライバルたちに引きずり降ろされることを、彼女は誰よりも知っている。だからこそ21歳の若き女王は、変化もミスも恐れることなく、より強い自分を追い求めていた。

 大坂が敗戦後の会見で見せた感情は、単なる安堵ではなかった。あの穏やかながら凛とした表情は、自らが進むべき道への確信と、静かな野心の表出だった。(文・内田暁)