1月6日、NHK大河ドラマ『いだてん』が始まった。今回のドラマは開始前から何かと話題になっていた。その最大の理由は、宮藤官九郎が脚本を務めているからだ。宮藤は数々のドラマや映画の脚本に携わってきた。彼がNHKの作品を手がけるのは、2013年の連続テレビ小説『あまちゃん』以来となる。

『いだてん』のテーマは、日本人がオリンピックにどう向き合ってきたかということ。「オリンピックに初参加した男」金栗四三と「オリンピックを呼んだ男」田畑政治という2人を軸にして、1964年に東京オリンピックが実現するまでの半世紀の歴史をたどっていく。

 ドラマの語り手としてビートたけしが起用されたことも話題になった。たけしは稀代の落語家である(五代目)古今亭志ん生を演じている。劇中では『東京オリムピック噺』という架空の落語を演じることで語り手を務める。

 たけしが志ん生を演じるのには理由がある。彼は志ん生の落語に惚れ込み、その芸の奥深さについてたびたび語ってきた。昨年出版された著書『やっぱ志ん生だな!』(フィルムアート社)の中でも、たけしの志ん生に対する思い入れがまとめられている。

 志ん生は(八代目)桂文楽と並んで「昭和の名人」と言われた伝説的な落語家である。落語の王道を行く端正な芸風の文楽に対して、志ん生はずば抜けた発想力を生かした笑いに満ちた落語を得意としていた。同時代の評論家の間ではスキのないきれいな落語を演じる文楽の方が高く評価されていたが、志ん生の落語は人間味にあふれていて、一般大衆からは熱烈に支持されていた。

 また、志ん生は「飲む、打つ、買う」を地で行く破天荒な生き方でも知られていた。無類の酒好きで、関東大震災のときには酒屋に駆け込んで浴びるほど酒を飲んだ。酒と博打にのめり込んだせいで万年貧乏暮らしで、借金取りから逃れるために改名を繰り返し、なめくじがたくさん出る「なめくじ長屋」に住んでいた。そんな志ん生は、落語の中に出てくるキャラクターのような人間的魅力にあふれる人物だった。

 たけしが志ん生の落語で評価している点は、何と言ってもその発想力にある。でっかいナスを表現するのに「暗闇にヘタつけたような」という言い回しを用いたりするのがその一例だ。落語という芸は、言葉だけで観客にあれこれ想像させることができる。志ん生はその言葉選びのセンスが抜群だった。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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