人的補償で広島に移籍する長野(右) (c)朝日新聞社
人的補償で広島に移籍する長野(右) (c)朝日新聞社

 新年早々の1月7日、プロ野球界に大きなニュースが飛び込んできた。広島がフリーエージェント(以下FA)で移籍した丸佳浩の人的補償に長野久義を選択したと発表したのだ。先月20日には炭谷銀仁朗の人的補償で内海哲也の西武移籍も発表されており、これで投打の生え抜きベテラン選手が相次いで球団を去ることになる。そこで今回は阪神からオリックスに移籍した竹安大知も含め、このオフに人的補償の対象となった選手についての各球団の狙い、シーズンでの期待値などを探ってみたいと思う。

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 まず内海を獲得した西武はポスティングシステムでマリナーズへ移籍した菊池雄星の穴を埋めるという狙いが明確である。菊池を除くと昨シーズン規定投球回数をクリアしたのは最多勝を獲得した多和田真三郎だけ。手薄な先発陣を何とかしたいという気持ちはよく理解できる。そして内海の獲得の後押しとなったのが昨年阪神からトレードで移籍してきた榎田大樹の復活ではないだろうか。過去3年間でわずか1勝と低迷していたが、昨年は自身初となる二桁勝利をマークするなど見事な活躍を見せたのだ。プロ入り当初にリリーフを任せられていたころのようなスピードはなくなったが、リーグ最多の14与死球が示すように内角を強気に攻める投球を取り戻し、緩いボールが生きるようになったことが大きい。 一方の内海もここ数年は目立った活躍は見せていないが、昨年も先発ローテーションに加わり5勝をマークするなどまだ完全に衰えたわけではない。8月以降成績を落としたが、7月31日のDeNA戦では4年ぶりの完封勝利も記録している。交流戦でもセ・リーグの現役投手としては石川雅規(ヤクルト)に次いで2位となる22勝をマークしており、パ・リーグ相手に実績を残している点もプラス要因だ。FAで浅村栄斗が抜けたとはいえ、強力な西武打線の援護があればある程度の勝ち星は計算できるだろう。

 西と金子弌大が移籍し、西武と同じく先発投手陣が手薄になったオリックスは同じ投手でも若手の竹安を指名した。高校時代は転校も経験し、最終的には強豪ではない伊東商に所属していたが、当時からフォームの良さには定評のあった投手だ。卒業後は社会人の本ゴールデンラークスに進み、ドラフト解禁の年は前年に受けたトミー・ジョン手術の影響でほとんどの公式戦に投げられなかったにもかかわらず3位指名でプロ入りしているところにも素材の良さが表れている。一軍での登板は3年間で3試合、通算1勝0敗と実績はないものの、昨年は二軍で14試合に登板し6勝0敗、防御率1.30という成績を残している。34回2/3を投げて25奪三振という数字からも打者を圧倒するようなピッチングをするわけではないが、シュート系のボールを覚えたことで投球の幅が広がり安定感が出てきた。西が加わったことで一軍の先発の枠が固まりつつある阪神に比べて、実績のある右の先発投手が山岡泰輔、ディクソンくらいしか見当たらないオリックスの方が竹安にとってもチャンスは多いはずだ。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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