ここまで述べたように西武オリックスはある程度納得感のある人選と言えるが、疑問が残るのが広島の指名した長野だ。過去の人的補償ではともに実績がなく若手だった赤松真人と一岡竜司を選択。赤松は移籍1年目から一軍に定着し7年連続二桁盗塁をマークするなど足のスペシャリストとしての活躍を見せた。また一岡も中継ぎ投手陣の中心的存在として、チームには欠かせない存在となっている。このような背景もあって、今回も若手選手を獲得することが予想されただけに、ベテランの長野を選んだことは一層驚きを感じた。新人王、首位打者、最多安打のタイトルを獲得し、ベストナインとゴールデングラブ賞にも3度ずつ輝くなどその実績は申し分ないが、過去数年の成績と今年で35歳という年齢を考えるとこれ以上の上積みは考えづらい。広島の外野陣を見ても丸は抜けたものの鈴木誠也、野間峻祥の二人は安定しており、残りの一枠を昨年25本塁打を放ったバティスタ、内野から転向の可能性が高い西川龍馬、捕手ながら外野手としても高い能力を持つ坂倉将吾などが争うと見られており、そこまで弱さを感じない。

 チームの精神的な支柱だった新井貴浩の穴を埋めたいという思いがあるのかもしれないが、いきなりその役割を長野に求めるというのも酷なものがあるだろう。他の要因とすれば巨人の戦力を低下させたいという狙いがあるのかもしれない。しかし外野手が飽和状態の巨人からすると、長野が抜けたことによって逆にスッキリした感があり、大きな戦力ダウンとは感じられない。広島でもある程度の成績は残すかもしれないが、若手の抜擢が遅れるというマイナス要因も大きいだろう。

 ただ今回、西武が内海、広島が長野を獲得したことで、年齢が高くても指名されるという牽制になったという効果はある。プロテクトのリストは非公開のため想像するしかないが、裏ではあらゆる駆け引きが働いていたことは間違いないだろう。内海も長野もアマチュア時代に巨人入りを熱望してプロ入りを遅らせたという経緯があり、今年のオフにFAで再び巨人に戻るという可能性もなくはない。その時にリストを作成する側の巨人には迷いが生じることになるだろう。

 FAによる選手の移籍に否定的な意見も少なくないが、このような駆け引きもプロ野球の醍醐味の一つである。そういう意味ではインパクトの大きいこのオフのFA戦線だった。(文・西尾典文)

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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