スキャンダルのたびに、官僚たちは、安倍政権の強大さを繰り返し思い知らされてきた。その状況が6年間経過し、あと3年はその体制が続くかもしれない。そう考えると、安倍総理直轄案件とも言える目玉政策に関しては、その意向を忖度して不正まで行うしかないということになる。これが、官僚劣化の第一段階だ。これが続くと、さらに不正を正そうとすることは身を滅ぼすことになると考えて、周囲の官僚たちも見て見ぬふりをするようになる。一方で、総理が関心をもたない大部分の行政分野では、せっせと自分たちの利権拡大に励むという事態も同時に生じる。

 さらに、現在は、もう一段階事態が悪化し、一部の官僚は、出世のために、総理の歓心を買おうと考え、求められてもいないのに、あるいは、どう見てもバレるとわかっているのに、無理をしてデータ捏造などに手を染めるようになる。もちろん、総理や官邸は、裁量労働制拡大に都合の良いデータが欲しかったであろう。あるいは、技能実習生の制度に大きな問題はないというデータを求めたかもしれない。しかし、その時に、「ないものはない」と全員が口をそろえて言えば、何の問題もなかったはずだ。それで安倍政権が倒れるわけでもない。国会では与党が圧倒的に優位に立っている。大きな問題さえ起こさなければ、どんなに反対が強くても法案は通る。現に、原子力損害賠償法、水道法、漁業法などの改正案は、世論の反対はかなり強かったにもかかわらず、ほとんど審議もせずに通ってしまった。もし、これらの法案に関してデータ捏造があり、それがバレていたら、法案は通らなかったかもしれないし、少なくとも審議はかなり紛糾していたであろう。そんな危ないことは、官邸から見てもやって欲しくないことなのだ。

 にもかかわらず、ある官僚が、無理をしてデータを捏造する「名案」を思い付いて、それが誰も止められないまま国会に出て行く、ということが起きている。

 なぜ、そういうことが起きるかと言えば、出世のためだ。そして、一部の官僚がそれを始めると、周りの官僚も心穏やかではなくなる。ライバルたちが、総理や官邸のご機嫌取りを積極的に行って歓心を買うのを見ていると、出世のためには、自分も同じように、いや、それ以上に「頑張る」ことが必要だと感じるのだ。官僚にとっては、いわば、「正当防衛」だから、罪悪感もほとんどない。かくして、官僚機構全体が「忖度競争」に陥ってしまう。「悪貨が良貨を駆逐する」現象が起きて、まともな官僚は「絶滅危惧種」となるのだ。

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リーダーシップと恐怖政治を履き違えた安倍総理