根本氏としては、複雑な思いがあったに違いない。地元の商工会議所の幹部など有力な後援者との関係もある。「なぜ早く教えてくれなかったのか」と言われたとき、「いや、実は、何も知らなかったんですよ」では、あまりにも格好が悪い。

 しかし、彼が言った言葉は、それとは真逆の方向を向いたものだった。

「あれっ、僕の地元のデパートの話ですか。いやあ、驚いたな。あっ、でも、地元の話だから、僕が聞いたらまずいですね」

 根本氏はそう言って谷垣大臣の方を見たのだ。これは官僚の視点からすると、ありえない行動だった。普通の政治家なら、自分の地元の案件だと知ったら、目がらんらんと輝き、できれば、自分が関与して、地元に手柄を持ち帰ろうとするのが当たり前の行動だからだ。

 その時、私は思った。これは、もちろん根本氏の人柄によるところもあるが、おそらく、谷垣氏の日頃の姿勢、態度が直属の部下である根本氏にも非常に強い影響を与えたのだと。

「李下に冠を正さず」ということをこれほどまでに徹底できる組織というのは非常に珍しい。トップの姿勢や態度が、いかに組織全体に広がっていくかといういい見本だろう。

 日本の行政機構のトップに、官僚たちが、その後ろ姿を見て、自分たちも見習って襟を正し、自らの利益や保身を忘れて、国民のために働こうと思える人が就くことが、今ほど求められている時はないだろう。

 その意味で、今の安倍総理は、官僚機構にとって、まったく真逆の存在になっているのではないだろうか。

 やはり、日本のために一日も早く総理大臣を交代させること。それが来年の日本の最大の課題なのだと思う。

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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