そうした意識に取り憑かれた官僚たちに、正義と公正という理念が通用する世界に戻ったのだということを示すには、「全てがリセットされた」ことを明確な形で示すことが必要だ。そのためには、正義と公正を実現する気概を持っているとみんなが信じられる新たなリーダーを選び直すことしか道はない、という段階になってしまった。私は、真剣にそう思う。

■安倍総理は、谷垣禎一氏に学べ

 行政のトップに立つ人物に求められる資質の一つとして、配下の人間に迷いが生じたときでも、「この人に従っていれば、正しい方向へ向かえるはずだ」という信頼や安心感を与えられることが挙げられる。これこそが今、日本のリーダーに一番求められているものだと言っても良いのではないか。

 しかし、これはなかなか難しい問題だ。何らかの制度を設ければ、そういう総理が誕生するというわけではない。政治家を選挙で選んでいる以上、裏で何を考えているかわからなくても、当選した人が政治家になり、総理大臣になる。

 その点、私の心に鮮烈な印象を残したのが、谷垣禎一前自民党総裁だ。

 それは、私が「産業再生機構」設立の法律を作り、その後機構に執行役員として出向していた立ち上げ期まで(02年~03年)のことだった。産業再生機構は、不良債権問題処理の最終段階で、ダイエーやカネボウなどの大企業の再生案件を手掛けるために作られた政府出資の特別な株式会社だ。私は、経産省から出向して、内閣府に作られた再生機構設立準備室の参事官(総括担当)に就いた。その時の担当大臣が谷垣禎一氏だ。

 傾いた企業の再生となるとどうしても、大きな外科的手術が必要となる。地域の雇用に与える影響、様々な取引先との関係、さらに、債権放棄させられる銀行との利害関係も複雑だ。当然のことながら、地元の国会議員はじめ、利権の大好きな政治家がハイエナのごとく集まってくる。経産省なども天下り先の維持を含めた利権の維持拡大に大きな関心を持つ。それをどうやって排除するのかが大きな課題だった。それは、政治家の圧力を受けませんと法律に書いたからといって無くなるわけではない。再生機構のトップ以下職員が体を張って政治家のおかしな要求をはねのけることができるかどうかということが最後の砦になる。それを少しでも担保できないかと思案した結果、私は、再生機構に執行役員として出向した後、政治家からの問い合わせがあった場合はすべて記録して、それを再生機構のお目付け役である中立的な有識者・専門家からなる産業再生委員会に報告するという制度を作った。ただ、そんなことをいくらやっても、大きな風穴があくリスクが残っていた。それが、再生機構担当大臣による個別案件への介入だ。

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谷垣氏はどんな政治家か?