浅草寺で授与される「縁起小判」
浅草寺で授与される「縁起小判」

歳の市(羽子板市)時の仲見世通り
歳の市(羽子板市)時の仲見世通り

羽子板市が立つ浅草寺の境内
羽子板市が立つ浅草寺の境内

今も歌舞伎の演目の板が並ぶ
今も歌舞伎の演目の板が並ぶ

 日本人に特に人気のある観音さまは、正式には観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)あるいは観自在菩薩(かんじざいぼさつ)という名を持つ。一度は耳にしたことがあるだろう有名な経典・般若心経(はんにゃしんぎょう)の冒頭に登場する仏さまである。

【羽子板市の様子はこちら】

 菩薩さまである以上、釈迦(仏教の開祖)の修行中のある時の姿を映したものだが、日本に鎮座する仏像のほとんどは女性的な肢体を備え、しなやかで優しげな様子は見るものを魅了する。現在日本に存在するお寺のほとんどが、境内のどこかに観音さまを祭っていると言ってもよいだろう。仏にはそれぞれ、その日に参拝すると特別のご利益があるとされる「縁日」があるが、これほど人気のある観音の縁日だけに、毎月18日は、よく知られる日となっている。

●正月用品を扱う年の市と観音さま

 京都の清水寺(千手観音)、滋賀・石山寺(如意輪観音)、東京・護国寺(如意輪観音)など有名どころの毎月の縁日は多くの参拝者を集めるが、12月の18日は特に「納め観音」と呼ばれ、ひときわ大きな催事となる。

 東京・浅草寺の本尊は聖観音菩薩で、12月の観音縁日に合わせて、すでに江戸初期には多くの店が並ぶ市が立っていた。年末の正月用品を売る市は「年の市」と呼ばれ、全国各地で行われていくのだが、浅草のものはひときわ賑わいをみせ、江戸初期頃から、羽子板が多く扱われるようになり、これが今の「羽子板市」へと続いている。

 羽子板がこの時期に売られるのは、もちろんこれが魔除け・厄除けの正月の縁起物として考えられていたためである。

●羽子板が縁起ものとなるわけ

 羽子板が女子の厄除けと考えられていたのは、羽根が害虫(特に蚊)を食べるトンボの姿に似ていることから、「悪い虫がつかない」ことを意味するとか、羽の玉に使われている木、「無患子(むくろじ)」の漢字が、“子が患わない”ことを指すといった縁起担ぎからである。

 余談だが、日本では古来、前にしか飛ばないトンボは、“常に前進する”勝ち虫として武将たちにも縁起が良いとして兜や陣羽織などの装飾にも用いられている。加賀の前田利家の兜につけられた前立ては有名である一方、西欧ではトンボは不吉な虫として扱われていたというから、文化が育んできた歴史は興味深い。

●ひいきの役者の羽子板を競って購入

 また、節分の折にも紹介したが、羽根についている黒い豆は「魔滅(まめ)」につながるために魔除けとして、また「忠実(まめ)であること」への戒めにも通じている。

 正月に用意するおせち料理とともに、正月を迎えるにあたっての日本人の心の持ちようが込められた風習だ。

 今年、浅草の「歳の市」(羽子板市)は18日を挟んで12月17日~19日の3日間行われる。羽子板の露店だけでなく、境内には各種の店が並び毎年30万人以上の人出で賑わう。近年では、その年話題となった人や出来事をあしらった変わり羽子板も話題となるが、江戸時代から続く歌舞伎役者の顔を模したきらびやかな板が今も人気を誇っている。

 江戸時代の中期頃の役者ブームの頃には、羽子板の売れ行きで、役者の人気や舞台の当たり具合を推し量っていたのだとか。今も昔も、タレントグッズの売れ行きは人気のバロメーターである。

 さて、この日に合わせて浅草寺では、日頃は置かれていない恵比寿と大黒の姿が描かれた「恵比寿大黒天御影」や「縁起小判」が授与されている。平成最後の「納め観音」では、どんな羽子板が出揃うのだろうか。

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鈴子

鈴子

昭和生まれのライター&編集者。神社仏閣とパワースポットに関するブログ「東京のパワースポットを歩く」(https://tokyopowerspot.com/blog/)が好評。著書に「怨霊退散! TOKYO最強パワースポットを歩く!東東京編/西東京編」(ファミマ・ドット・コム)、「開運ご利益東京・下町散歩 」(Gakken Mook)、「山手線と総武線で「金運」さんぽ!! 」「大江戸線で『縁結び』さんぽ!!」(いずれも新翠舎電子書籍)など。得意ジャンルはほかに欧米を中心とした海外テレビドラマ。ハワイ好き

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