30代で教授になったノーベル賞受賞者には、湯川秀樹(1907年生まれ)、朝永振一郎(1906年生まれ)、福井謙一(1918年生まれ)、野依良治(1938年生まれ)、本庶佑(1942年生まれ)の各氏がいる。自然科学系分野では、若い学者でも優れた研究成果を示すことで、早い時期に教授に就任するケースがある。
 
 一方、人文・社会科学系分野はどうだろうか。

 2000年代前半まで、東京大法学部などには学部を卒業後いきなり助手に採用する制度があった。優秀な人材は大学院修士課程、博士課程をすっ飛ばして助手にさせるというものだ。天才、秀才たちが法曹界や官僚に流れないようにするため、という側面もあった。

 東京大法学部卒業後に助手に採用、20代のうちに助教授(准教授)、30代で教授になった俊才は、若くして活躍している。なかでもメディアへの露出度が高い学者たちを紹介しよう。

 元東京大総長・佐々木毅(1942年生まれ)、東京大名誉教授・御厨貴(1951年生まれ)、早稲田大教授・長谷部恭男(1956年生まれ)、 法政大教授・山口二郎(1958年生まれ)、同・杉田敦(1959年生まれ)、東京大教授・牧原出(1967年生まれ)、首都大学東京教授・木村草太(1980年生まれ)<敬称略>

 若手の学者が活躍する一方で、大学教員の平均年齢が年々上がっているというショッキングなデータがある。

 文科省では3年に一度、学校教員の調査を行っている。それによれば、2016年度の大学教員の平均年齢は49.1歳だった(平成28年度文部科学省学校教員統計調査、以下同)。30年前の1986年度は45.2歳、1977年度まで遡れば43.1歳。約40年で6歳も上がっているのだ。なぜこんなことが起こったのだろうか。

 それは、大学教員の定年が延びたからである。たとえば、東京大の定年はかつて60歳だったが、2001年度から3年ごとに1歳ずつ引き上げ、13年かけて65歳となった。多くの国立大学も同様に定年を延長している。私立大学も、63歳から65歳に、あるいは67歳まで延長したところもある。

 だが大学教員の定数は決まっている。つまり定年が延びれば、なかなか教員のポストが空かず、若手教員を採用する機会が減ってしまう。なるほど、教員の平均年齢が上がるわけだ。年齢構成別にみると、50歳以上は2004年の43.7%から16年は46.5%に増えた。逆に40歳未満は27.5%から23.5%まで減っている。

 1990年代、大学院重点化政策に伴い、大学院の数も、大学院生の数も急増した。それにより博士号学位を持った研究者予備軍も増えた。にもかかわらず、教授、准教授のポストがなかなか空かないため、若手学者は就職先を見つけることができない。定年延長で「上が詰まっている」のだ。

 それは各大学の最年少准教授の年齢にもあらわれている。東京大、東京工業大、名古屋大、京都大、大阪大など国立5大学で2002年と2017年を比べてみたが、02年はいずれも20代だったが、17年では20代は京都大のみだ。

 少子高齢化は大学、学者の世界にもじわじわと押し寄せている。それによって、日本のアカデミズムの将来はおおいに危惧される。国も大学も若手学者の育成を真剣に考えてほしい。

(文/教育ジャーナリスト・小林哲夫