2017年、昭和最大の未解決事件と言われる「グリコ・森永事件」をモデルに描いた漫画『罪の声』(講談社)でタッグを組んだ、原作者の塩田武士氏と作画の須本壮一氏が、今度は「情報」を1つのテーマに掲げた作品を、それぞれ世に出すことになった。8月に塩田氏の『歪んだ波紋』(講談社)が、10月には須本氏の『GATO -ゼロイチの戦場-』が出版された。二人の対談を通し、変化し続ける情報社会の生き方に迫る。

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──塩田さんは今年の8月に、“情報”を切り口とした『歪んだ波紋』を刊行されました。

塩田:そうですね。記者が、レガシーメディアやニューメディアそれぞれで、“誤報”に接するんですが、そこで、今のメディアの形やジャーナリズムについて表現しました。誤報というものを紐解いていくと人間の弱さにいきついたのが、この作品の原点になっています。

須本:痺れる作品です。エピソードもタイムリーで。イトマン事件の許永中インタビューって、実際にテレビで放送されたじゃないですか(編集部注※17年12月26日放送のテレビ東京「ガイアの夜明け」)。その後に塩田さんの作品を読んで、ちょっと考えちゃうわけですよ。

塩田:もともと許永中に興味があったんですよね。それで許永中に関する資料、例えば年表とか発言集をまとめたり、周辺人物表を作ったりしたんですけど、小説として描くにはどこか閉塞感を覚えていました。そんな時、週刊新潮に許永中のインタビューが出たんです。自分が許永中に最初に接触できれば、ものすごい話題にもなるし、許永中の闇の部分を小説にできるかもしれないと思いがあったんですが、週刊新潮に先を越されて、自分の元気がなくなってしまいました。

須本:なるほど(笑)

塩田:しかも次に「ガイアの夜明け」に出て、肌つやのいい顔で「今介護用オムツ作ってるんです」と言っていて。その後、文藝春秋で記事を見たときに、もう駄目だなと。でもそのときに、新作を書くのに感じていた閉塞感は『罪の声』に引きずられていたせいだと気が付きました。つまり現実の事件や人物を調べていて、その人そのもののおもしろさに迷い込んでいたんです。それを捨てた瞬間に、今回のような作品が書けるようになりました。

須本:だからこそ、最後の5章が生まれたわけですね。

塩田:許永中の誰もが知っているようなエピソードだけ残して象徴化し、連作短編をつなげる役割を担わせることで、最終章につながりました。

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戦争の闇の部分を描く…