須本:私は作品としては、今回の『GATO -ゼロイチの戦場-』もそうなんですが、“戦記モノ”を主に描いています。なので戦争がテーマになることが多いんですが、実は戦争自体も、色々な捉え方があるんですよね。戦時中や戦後にも、明らかになっていない闇の部分があったりするわけで。

塩田:その隙間、隙間に、闇がぜったいにあるんですよ。歴史とか史実って。その闇の部分をこう置き換えたら、今まで見ていたものが全然ちがう角度で浮き上がっていくということがおもしろいんだと思うんですよね。小説家はそこを考えているので、闇の部分を探していく。

須本:最近思っているのは、アメリカのトランプ大統領の、光と影というか。どっちが正しいのかということよりも、世の中が流されてできあがった時代が今なのではないかと。もしこのまま何の支障もなければ、それでもいいと考える人が大多数になってくるんじゃないかと考えてしまうことがあって。極端な話、ウソの世界を全員が信じて幸せになれるなら、それもありだと考える世代もいっぱいいるのかなと思っちゃうんですよね……。

塩田:僕らがこれまで信じてきたニュースは、“おもしろくて正確で人の役に立つ”というのが前提だったんですけど、今は、“おもしろくて自分の役に立つ”に変わってきていると私も思っています。

須本:塩田さんの作品の主人公はジャーナリストということもありますけど、常に真相を追求する。時には、凄い裏取りにこだわる。個人的には、そこまでこだわらなくてもいいと思うときさえある。その軸を決してブレないようにしているのは、やはりそういう部分をなくすと怖いという思いがあるからなのでしょうか?

塩田:そうですね。これからの時代、やはり“虚実”というのが凄く重要なワードになってくると思います。どっちが現実でバーチャルかわからないという時代になってくる。それはニュースにも言えることで、何が本当のニュースなのか分からないまま、偽物でインパクトがあっておもしろいものが拡散して、それが情報を制してしまう。悪貨が良貨を駆逐するような状態になっていって、これまでは本当のことが大事だったのに、このまま得な方を選びませんかという概念が正しくなっていったら、今私たちが持っているのとはまるで違う価値観が形成されていくと思います。

──須本さんは、『GATO -ゼロイチの戦場-』にVRという要素を入れました。この意図とは?

須本:作中でのVRは簡単に言うと「もう一度戦争を体験させてしまう」手法なんですが、1つだけ戦争当時と違うことがあります。

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