塩田:どういうことでしょうか?

須本:この戦争が終わることを知っている人間が、戦時を生きるということです。戦争が終わることを知らないで戦時を生きている人とは、明らかに違うだろうと。そこを、作品の主人公たちの逃げ道に使えないかなって思いました。

塩田:結果が分かっているからそこから逆算して、例えばこの戦場はまともにぶつかって全滅するというのが分かっていれば、逃げるという選択肢が取れますよね。

須本:そうですね、あるいは耐えるとか。今まさにおっしゃられたように、死ぬかもしれないけど、ここで戦わなきゃいけないという考えが無くなった場合、戦闘自体の考えが変わるかなと。死なないでいれば、助かるという考えは今はある。ただ恐らく当時はなくて、死んでも戦わないと国の親兄弟も全部死ぬ。だから自分が犠牲になってでもという考えが軸になっていたと思います。

塩田:無条件降伏をした時に日本国民に刷り込まれていたのは、モンスターみたいなのがきて、日本がめちゃくちゃにされるということだったのではないかと思います。そうじゃなくて、占領期間はあったにせよ、独立して経済的にも発展しますと分かっていたら、戦っていた人たちも確かに逃げていた気がします。

須本:実際によく「架空戦記」ものにあるのは、どうやったら日本は勝てたのか。当時のアメリカの国力を知っていればとても勝てるわけがない、だから戦わないみたいなシナリオを書くんですけど、そういうこと自体はもうナンセンスだと僕は思っている。当時それを知っていた人が戦争のスイッチを押している。戦争という流れは一人や二人の力では恐らく止められなかったと思っている。だからそうではなくて、その戦争がどれくらいで終わるとか、これくらいの被害が起こるとか、そういうことをもし全部知っていたら、違う戦場の感情が生まれるのではないかなと。

塩田:今回の新作に出てくる車椅子の人は、主人公とは立ち位置が違いますよね。

須本:あれは実は、笹川良一さんをモデルとして描いています。私の中でずっと、戦後というのは笹川会長が1つのテーマだと言えるんですよ。

塩田:なるほど……。

須本:彼は日本船舶振興会の大ボスでバクチの大本を個人で持っていたのはあの人しかいなくて、莫大なお金を持っていました。私が子供の頃はCMにも出ていて、爽やかなおじいちゃんという印象で、私は写真も一緒に撮ったことがあります。でも段々自分が知識を得てくると、あの人は悪の帝王だったんじゃないかと思ったりもして。

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