そもそも、年金制度がスタートした1961年の平均寿命は男66歳、女71歳だった。しかし、長寿化によって、2017年には男81歳、女87歳まで寿命が延びたことにより、年金を受け取る平均期間が大幅に延びている。さらに、生産年齢人口が減り、今は現役世代2人で高齢者1人を支えているが、少子高齢化はこれからさらに深刻になり、60年には1.3人で一人を支える計算だ。そして、そのこと自体、今からどんな努力をしたとしても変えることができない。

 こうした状況を見れば、抜本的な改革か大増税でもしない限り、いずれ年金制度が立ち行かなくなるのは自明なことのように見える。だから、難しい知識はなくても、誰もが不安を感じている。そして、専門家も、そもそも政府の試算は、非常に現実離れした楽観的な前提に立っており(ここでは、この点についての詳しい解説には立ち入らないが)、実現不可能なシナリオだと具体的に指摘し、批判している。どう考えても、この制度を「100年安心」などと偽り続けることはできないところに来ているというのが現実だ。

 もう間もなく迎える2019年は、5年に1度行うことになっている年金制度の検証(財政検証)の年だ。この機会に、年金制度を根本から見直して、必要な対策を一日も早く採ってもらいたいというのが、国民の切なる願いだろう。

■「生涯現役」でバラ色の老後を演出しようとする安倍総理

 こうした国民の不安と関心をとらえて、安倍総理は、自民党総裁選の公約などで、「生涯現役社会」などという夢のある言葉を連発した。その中で、生涯現役を目指す人は、70歳を超えても年金受給をせずに働き続けたいと考えるはずだということで、「受給開始年齢を70歳を超える年齢とする選択も可能にする仕組みづくりを3年で断行したい!」と声高に訴えた。

 もちろん、そんなことを言っても、70歳までみんなが働けるのかという声が出る。そこで、まずは、現在企業に課されている65歳までの雇用義務を70歳まで引き上げることを検討するとしている。当初は義務ではないが、おそらく、将来的には義務化ということになるだろう。

 70歳まで働ければ、老後を年金に頼る高齢者は減る。さらに年金の繰り下げ受給(現在の制度では、受給開始を1カ月遅らせるごとに0.7%ずつ、年金額が上乗せされる)を奨励し、なるべく70歳以上まで年金をもらわないように促していく。安倍総理が、これらによって年金財政への負担を緩和しようと狙っているのは明らかだ。

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勤勉な国民とバラ色の老後