年金が70歳までもらえないと言うと、国民に大きな不満が出る可能性がある。ロシアのプーチン大統領が年金受給開始年齢を男性60歳、女性55歳から段階的にそれぞれ65歳と63歳に引き上げる案を出した途端、国民は強く反発し、各地でデモが起きた。慌てたプーチン大統領は、女性について、63歳とした案を60歳に引き下げると提案し直したが、それでも8割前後あったプーチン氏の支持率はつるべ落としに下がって、調査によっては3割台にまで下落した。年金の受給開始年齢引き上げは、政治家にとって、時に致命傷となることを示している。

 しかし、だからと言って、日本の場合も、この問題に手を付けなければ、本当に年金破たんというリスクが顕在化するかもしれない。したがって、その制度を持続可能な仕組みに変えようとする安倍総理の目的は大きな意味では正しいと言ってよいだろう。このままでは若い世代の負担はさらに重くなり、世代間の公平も保てなくなる。やらなければならないのなら、早く手を付けた方が良い。これは、政権が自民党か立憲民主党かと言ったことにかかわらず、誰かが手を付けなければならない国民的課題なのだ。

 ただし、現在安倍総理が採っている改革の手法には疑問が残る。総理は「一億総活躍社会」のかけ声のもと、「生涯現役で働ける仕組み」「70歳でも元気に働ける社会」など、バラ色の夢ばかりを語っているが、それでは、とても真実を語っているとは言えないからだ。こんなことをしていると、いずれ、国民は騙されたと怒り、必要な改革が政治的に実行不可能になってしまうかもしれない。 

■「勤勉な」国民に年金繰り下げ受給を勧めると何が起きるか

 私は、雇用延長と年金の繰り下げ受給が定着すれば、日本国民の「勤勉な」国民性のために、年金制度の性格は様変わりするのではないかと見ている。どういうことが起きるのだろうか。

 70歳まで働けますということになれば、人生100年と言われて不安に駆られる高齢者の多くは、多少無理してでも70歳まで働くだろう。さらに、その先には、後期高齢者になる75歳くらいまでは働けるという声が出て来る。現に75歳でも元気な人はたくさんいる。75歳雇用はすぐそこに来ていると思った方が良いだろう。その先には80歳雇用が待っている。

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「死ぬまで競争社会」を生き抜く