その自信の裏付けは、西武の本拠地・メットライフドームのマウンドにあった。他の球場に比べ、高橋礼の実感でも「低くてマウンドにあまり角度がない」。オーソドックスにオーバーハンドで投げ下ろすタイプの投手は、そのアドバンテージが消えてしまうため「上から投げる人は、上からボールをかぶせられないから、ボールが抜けやすいと思うんです」とは高橋礼の解説だ。

 つまり、逆もまた真なりだ。アンダースローの場合、ボールが「下」から「上」に浮き上がる軌道を描く分、制球を乱した場合には、どうしても高めに浮きやすくなる。しかし傾斜の緩いマウンドでは「平行に体重移動ができるんで、球が抜けたりする感じがない」と高橋礼。実際、今季のレギュラーシーズン、メットライフドームでの登板3試合で計8回3分の2を投げて3失点。被本塁打も1本のみと、十分に合格点の投球内容を見せており、チーム内でも「メットライフドームでの秘密兵器」とささやかれていたほど。その評判通り、敵地でのCS初登板で高橋礼がアンダースローの魅力を存分に発揮した。

 まず浅村に対し、136キロのストレートでストライクを取り、116キロのスライダーでファウルを打たせると、最後も115キロのスライダーで3球三振。これでピンチを断つと、続く四回には4番・山川穂高を二ゴロに打ち取り、栗山には137キロのストレートで、中村剛也にも117キロのスライダーで空振り三振に仕留めた。

 イニングをまたいでも、同級生の森友哉に125キロのシンカーを落とし、外崎修汰には100キロのスローカーブでタイミングを狂わせての4者連続三振。疲れが見えた6回、2四球と2安打で1失点を喫したものの、浮き上がるストレートと、きっちりと制球された変化球に「得点力のある打線を抑えられたことは、自信になります。森君のときにはシンカー、外崎さんはカーブで三振を取れたんですけど、うまくいったなと思います」と自己分析した。

 この敗戦で、ソフトバンクは1勝2敗と西武に先行される形となった。それでも高橋礼に「使える」メドが立ったことは、逆襲に向けての大きなプラス材料だ。工藤監督も「リズムもよかったし、テンポもよかった。非常によかった」と今回の好投を評価した上で、今後の起用法について「いいところでね、というのはある。今後のことも考えると、そうそう負けているところだけで投げるわけにはいかない」と右の強打者相手のワンポイントや勝ちゲームでの中継ぎなど、勝負どころでの起用を示唆。担う役割が早くも“浮上”したようだ。

「真ん中でも強いボール。ライオンズ戦では、それを意識しています。右のインコースの真っすぐで、どれだけ詰まらせるか。コースをきっちり突いて、バットを折るつもりで投げています」

 そう語った強気なアンダースローは、DeNAの左腕・東克樹の出場辞退に伴い、来月に開催される日米野球の日本代表メンバーに代替選出されたことがこの日の登板前に発表された。プロでまだ白星を挙げていないルーキーが、国際大会では希有な存在とも言える「下手投げ」という特色を買われての大抜擢だ。「未勝利の侍ジャパン」という新たな肩書がついたサブマリンは、ファイナルステージでのソフトバンクを、そして稲葉ジャパンも“浮き上がらせる”可能性を秘めている。(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス中日、ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。