6時30分発の列車の予約を頼もうとすると、カウンターの職員はこういった。

「アナンダ・ビハール駅だけど、大丈夫ですよね」
「アナンダ・ビハール?」

 初耳の駅だった。

「ニューデリー駅はもう一杯だから、10年ぐらい前に新しい駅ができたんです。タクシーで30分ぐらいです」

 親切な駅員だった。調べると地下鉄で行くこともできた。しかし地下鉄の始発は午前6時。少し難しそうだった。

 アナンダ・ビハール駅近くの宿にしようか……。少し悩んだが、メインバザールロードに向かって歩きはじめた。僕にとってのデリーはやはりこの界隈だったからだ。

 翌朝、朝の5時30分。アナンダ・ビハールにいた。

「あそこまで歩くのか……」

 敷地が広かった。教えられた駅ははるか遠く、かすんでいる。着いてわかったのは、アナンダ・ビハールという場所は、バスターミナルと鉄道駅が同じ敷地のなかに共存するエリアということだった。どこか場当たり的に広がっているデリーだが、やはりそういう時代なのだろう。インドは鉄道大国のようにも映るが、バスは確実に存在感を増していた。アナンダ・ビハールにしても、バスターミナルエリアのほうに活気がある。

 インドの人たちにとってのアナンダ・ビハール。旅行者にとってのゴールデンコンビであるニューデリー駅とメインバザールロード。そんな色分けができつつある気がする。

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下川裕治

下川裕治

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

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