2010年のドラフト全体1位でナショナルズに指名されたスティーブン・ストラスバーグの交渉の際も、ボラス氏は野球浪人させることも辞さない強気の姿勢を維持。最終的に交渉期限ぎりぎりでドラフト史上最高額の4年1510万ドルの契約を引き出した。ちなみに、ストラスバーグは2016年にナショナルズと7年1億7500万ドルで契約延長しており、ボラス氏は彼ひとりの交渉分だけで約950万ドルを手にしたことになる。

 ヤンキースへメジャー移籍して活躍を続ける田中将大の代理人を務めるケーシー・クロース氏も、現在のメジャーリーグでは屈指の辣腕として名を馳せている。かつてヤンキースの主将として黄金時代の一角を担ったデレク・ジーターの代理人だったクロース氏は、田中の移籍に際してヤンキースと総額1億5500万ドルの契約を結んだ。

 ちなみにこうした大型契約では、専属通訳を雇う費用や住宅費などの雑費、さらには日本へ帰国する際の航空券代などまで細かく網羅しているのが一般的だ。また、大金を手にした選手たちへの資産運用などをアドバイスすることもある。代理人にとって大物選手は文字どおり「金のなる木」なだけに、まさに至れり尽くせりなのだ。

 もっとも、最終的に契約するかどうかの決定権はもちろん選手にあるため、代理人の想定どおりに進まないこともある。田中の場合も2017年オフに入団時の契約を破棄してフリーエージェントとなるオプトアウト(契約破棄条項)を設定し、30歳直前のタイミングで改めて大型契約を結ぶという青写真だったが、結果的に田中はオプトアウトせずにヤンキース残留を選んだ。クロース氏としては、これは誤算だったかもしれない。

 ともあれ、敏腕代理人たちは数々の交渉でメジャー球団から大金を得てきたが、その風向きがやや変わったのが2017年オフのこと。ヤンキースやドジャース、ナショナルズなど資金力が潤沢で代理人たちにとっても絶好の商売相手だった球団たちがいわゆる「ぜいたく税」の課税回避を狙って総年俸を抑える方針を取ったため、大物FAの獲得に慎重になった。その余波が他の球団にも及んだため移籍市場が例年になく冷え込んだのだ。

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今オフは注目のFA選手が史上最大の契約か