メジャーリーグで大きな影響力を持つスコット・ボラス氏(写真:getty Images)
メジャーリーグで大きな影響力を持つスコット・ボラス氏(写真:getty Images)

 スポーツビジネスを語るうえで欠かすことのできない存在。それが代理人だ。メジャーリーグでもそれは例外ではなく、彼らは時にプレーヤーの選手生命を左右し、チームの浮沈のカギを握る。もちろんその存在感に比例して報酬も巨額となり、多数の大物選手をクライアントとして抱える代理人は巨万の富を得ている。

 代理人の報酬はスポーツの種類によって多少の違いがあり、メジャーリーグでは年俸額の5%が相場と言われる。つまり、年俸総額100億円の契約をまとめれば、5億円が代理人の懐に入る計算だ。さすがにこのクラスの契約を結ぶ選手を顧客としている代理人の数は多くないが、大型契約をまとめ上げた実績は、さらなる大物クライアントを呼び込む材料ともなり、結果として少数の敏腕エージェントの寡占が促進される傾向にある。

 巨額の契約が自身の報酬につながる構造上、代理人たちは球団に高額契約を迫ることになるため、各チームのGMや時にはファンからも批判を浴びることもある。その最たる例が“吸血鬼”とまで呼ばれたスコット・ボラス氏だ。

 ボラス氏は、あの手この手で高額契約を引き出す達人だが、あらゆるデータを駆使するだけでなくルール上の穴などを突いて徹底的に球団から大金を絞り出す。2000年のシーズンオフには当時の全米プロスポーツ史上最高額の契約となったアレックス・ロドリゲスとレンジャーズの交渉で、総額2億5200万ドルの契約に成功した。報酬が5%だとして、ボラス氏はこの一件だけで1260万ドルを稼いだことになる。これは平均的なメジャーリーガーの年俸をはるかにしのぐ高額報酬だ。

 その後もボラス氏は総額1億ドルを超える高額契約を次々とゲット。2006年にはメジャー移籍を果たした松坂大輔の代理人も務め、レッドソックスとの6年5200万ドルの契約をまとめた。このオフにはバリー・ジトとジャイアンツの総額1億2600万ドルの7年契約、J.D.ドリューとレッドソックスの5年7000万ドルの契約もあり、この3人だけでボラス氏の取り分は1240万ドルになったとみられる。

 ボラス氏が手掛けるのはメジャーで成功済みの大物FAだけでなく、ドラフト候補の学生たちも有力なクライアントになる。先述のドリューは1997年のドラフト1巡でインディアンスから指名されるも契約交渉が不調だったため、ボラス氏はドリューに独立リーグでの一時的なプレーを勧め、翌年のドラフト1巡で指名してきたカージナルスと年俸4年850万ドル、契約金300万ドルの契約を結んだ。これはインディアンスが提示した額の約2倍だった。

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強気の姿勢で球団と交渉