今回のヨネックスオープン優勝会見でも「会場まで足を運び、自分を応援してくださった方の存在がすごい力になりましたし、周りの方のおかげで優勝できたので本当に感謝したいです」と爽やかな笑みを浮かべていた。その立ち振る舞いに魅了された関係者は少なくないはず。今の桃田は誰もが認める好青年に他ならないのだ。「昔の方が面白いことを喋っていた」と評する声も一部からは聞こえてくるが、大きな挫折を糧にして、世界選手権とヨネックスオープンという自身が追い求めていたタイトルを取ったのは事実。リオの時、一度は完全に遠のいたと思われた五輪金メダル獲得が現実味を帯びてきたのも確かだろう。

「これからは『桃田包囲網』というか、かなり研究されてくると思う。そういう相手に負けないようなフィジカル強化や体力維持が必要。あとはケガですかね。そこに注意していくことが大事だと思います」と前出の須賀監督も警戒心を露わにしたように、2年後の東京五輪本番までにはまだ紆余曲折があるかもしれない。

 桃田自身も「五輪が開かれる会場で優勝できたことはすごい自信になりましたし、すごく相性のいい体育館だと思いました。でも、またすぐに試合があるので、先を見ずに、今できることを精いっぱいやっていきたい」と一歩一歩進んでいくつもりだ。しかし、たとえどんな壁が眼前に現れようとも、道を誤り、社会的制裁を受け、選手生命の危機に瀕するという大きな挫折をした男なら絶対に乗り越えることができるはずだ。

「挫折をしない人間はいない。その壁を乗り越えないと次のステップには行けない。失敗する中で最終的に諦めずにやり続けた人間こそが勝つ」と、サッカー日本代表の本田圭佑(メルボルン/オーストラリア)も語っていたが、挫折のレベルが大きければ大きいほど、その人は強くなれる。そういう意味で桃田賢斗は無敵かもしれない。努力する天才になったバドミントン王者がどこまで高みに上り詰めるのか。そこを興味深く見守りたい。(文・元川悦子)