「悪かったね。1回が終わってからの次だね。先発投手としてのゲーム作りができなかったな。本人が一番分かっているだろうけど」

 37歳のベテランともなれば、試合中に修正すべきポイントや、悪いなりに乗り切るコツもつかんでいる。イニング間のキャッチボールで、何度も全力ピッチを繰り返していたのは、腕の振りや体の動きを思い出させるためだろう。しかし2回も、2死無走者から重信にプロ3年目での初アーチを献上したのを皮切りに、5連打で4失点。2回7失点の惨劇では、2回の攻撃時に打順が巡ってきたところで代打・堂上直倫が送られたのもやむを得ないだろう。2回、苦闘の61球は最速138キロ。試合開始わずか50分でスコアボードから「松坂」の名前が消えた。

「悪いなりに、1つくらいは使えるボールがあるものなんですけど、今日はなかったですね。巨人打線云々より、僕自身がどうにもならなかった。それに尽きます。こういう試合、年に1回か2回はあるんですが、この時期に出したのはなかったですね」

 実は負ければ、自力でのCS(クライマックスシリーズ)進出、つまりAクラスの可能性が消えるという重要な一戦だった。松坂はこの試合まで登板9試合で5勝3敗、防御率2.79、しかも4連勝中だった。昨季までのソフトバンクでの3年間で1軍登板1試合のどん底から、まさに復活を遂げた37歳のベテランには、その剣が峰での踏ん張りに大きな期待がかかっていただけに「ああいうゲームをして申し訳ないです」。

 ただ、今季の巨人戦ではなぜか、結果が伴わない。この日までの登板2試合で勝ち星なしの2敗で対戦防御率も7・36。5月13日の東京ドームでは右ふくらはぎの強い張りを訴え、3回途中で緊急降板もしている。根拠のない、抽象的な言葉を簡単に使いたくはないが、どうも「相性が悪い」ようなのだ。

 中日は今季残り21試合の時点で最下位。3位の巨人までも5・5ゲーム差。CS進出、Aクラス入りへ、何とも微妙な位置にいる。監督の森が語気を強めた。「試合は残っている。残りがある限り、やり尽くすだけ。選手は諦めないし、俺だって最後までやりますよ」。

 松坂にとっても、これまでの登板間隔を考えれば、登板チャンスはあと1回程度だろう。ただ、松坂にもチームにも、巻き返すための機会は残っている。首位の広島を除く5チームが「借金」を抱えるセ・リーグ。決め手のない混戦の中、松坂の“踏ん張り”が再び、必要とされるときが来るはずだ。(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス、中日、ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。

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