中日・松坂大輔 (c)朝日新聞社
中日・松坂大輔 (c)朝日新聞社

 選手たちの愛車が並ぶナゴヤドームの駐車場には、すっかり空きスペースが目立っていた。帰路につく松坂大輔がその関係者駐車場に姿を見せたのは、試合終了からおよそ1時間45分が過ぎた午後7時15分頃だった。体のケアはもちろん、自らの心を落ち着かせ、試合を総括するためには、少しばかりの“冷却期間”が必要だったのだろう。

「まあ、見ての通りです」

 ふがいない自分のピッチングには、自分自身が一番、いらだっている。中16日で臨んだ今季10度目の先発マウンド。調整期間も十分なはずだった。しかも、前日の9月1日は、投手8人を要しての延長12回引き分け。苦しい台所事情を考えれば、自分が1イニングでも、打者1人でも長く投げなければいけなかった。それなのに、2回7失点で早々にKO降板。「序盤から何もできず、ゲームを壊す形になった。申し訳ない」。松坂はこの「申し訳ない」というフレーズを、3度も繰り返していた。

「ブルペンでは、前回と変わりはなかったんですが、近藤(投手コーチ)さんは『今回は、あまりよくなかったな』と……」

 その“不調ぶり”は、試合前からところどころで顔をのぞかせていた。シートノックが始まるプレーボールの45分前から、ファウルゾーンのところで遠投を行うのが松坂の登板前のルーティン。少しずつ距離を伸ばし、最大80メートルほど。そこから再び距離を縮めていく。その仕上げのときだった。松坂のコントロールが定まらない。パートナーのブルペン捕手・中野栄一のミットがやたらと頭上に動く。球が抜けるようなのだ。

 そして、2人の距離が20メートルくらいになった頃だった。松坂の投げた球は、中野の頭上をはるかに超え、バックネットへ直接当たる大暴投。そのワンシーンだけで調子云々を断言することはできないが、しっくり来ていない様子は見て取れる。そのリズム感のない投球ぶりは、試合開始直後から散見されていた。

 巨人の1番・坂本勇人には、9球粘られた末、124キロのスライダーをレフトに運ばれての二塁打。重信慎之介には132キロのツーシームを引っ張られてのライト前ヒットと、いきなり一、三塁の大ピンチ。1死を奪ったが、4番・岡本和真の初球で重信に二盗を決められ、続く2球目、136キロのストレートをセンター右の最深部へと運ばれる28号先制3ランを許してしまう。1回だけで35球を要したが、球速は1球たりとも140キロ台に乗らない。キレもコントロールもない、何とも不安定な立ち上がり。ただ監督の森繁和が“らしくない”と指摘したのは、続く2回のピッチングだった。

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「ああいうゲームをして申し訳ないです」