もちろんそれらは、望んでいた結果ではない。だが、苦しみの中で喫した2つの敗戦は、彼女が抱えた重圧も道連れにしてくれたようだ。

「これだけ負けたのだから、もうプレッシャーを感じる必要もない」

 そう思うと、心が軽くなるのを知る。続いて出たシンシナティ大会では、初戦で破れはしたものの、久しぶりにテニスが楽しいと感じられた。

 テニスを楽しむ感覚に久々に身をひたし、1年ぶりに帰ってきたニューヨークの全米オープン会場で、彼女は「ノスタルジーに近い思い」に襲われたという。ニューヨークのロングアイランドは、幼き日の彼女が住んだ町。そして、家族に“なおち”の相性で呼ばれていた大坂少女が、毎日のようにボールを追った場所である。だからこそ、この大会では「ホームのように感られる」と、大坂は嬉しそうに言った。

 全米では2大会連続で3回戦に勝ち進んだため、周囲は「今回は4回戦以上」を期待しがち。だが今の彼女は、そんな喧騒との付き合い方を心得ている。まず目を向けるべきは、初戦の対シグムンド戦。過去の対戦で1勝2敗と負け越している相手との戦いに向け、「彼女はとてもトリッキーで良く走る。対戦相手をイライラさせるプレーが得意なので、がまん強くプレーしなくてはいけない」と描く戦術を語った。

 20歳の第20シードを取り囲む環境は、否が応でも移り変わる。高まる注視に、狭まるライバルたちの包囲網――それらに変わりゆくものに、大坂は、変わらぬテニスへの情熱で挑む。(文・内田暁)