ブルペンで受ける時でもただ受けているだけなんですよ。しっかり腰を浮かせて捕ってから投げるまでの一連の動きを練習している選手は少ないですね。フットワークはキャッチングだけでなく、スローイングにおいてもとても重要です。キャッチャーは肩が強いことが大事だと言いますけど、それに頼っている選手は、年齢を重ねて肩が衰えてくると一気にダメになるんですよ。逆に、肩が強いだけでなく、しっかりとフットワークができているキャッチャーは、多少肩が衰えてもランナーを刺せるんです。谷繁(元信・元横浜、中日)は肩も強かったけど、若い頃からずっとフットワークをしっかりやっていましたね。だからあれだけ長く活躍できたのだと思います」

 まずしっかり捕球することとフットワークが大事だと語る八重樫氏だが、次に難しいのは投手とのコミュニケーションの部分だという。

「若いキャッチャーの場合はピッチャーの信頼を得るまでが大変です。そのためには試合前にしっかりとピッチャーと話をすることが大事なんですよ。ピッチャーがどのボールに自信があって何を投げたいのか、そういう点をしっかり把握しておかなくてはいけません。それは試合中も同様です。キャッチャーが出したサインに対してピッチャーが首を振ることはよくありますが、その時になぜピッチャーが首を振っているのか、まずよく考えないといけない。

 何も考えずにピッチャーの投げたいボールを投げさせてもダメですし、キャッチャーが自分の要求を押し通して投げさせてもダメです。ちゃんとお互いの意図を理解して、なぜそのボールを投げるのか納得いく形で投げさせないとまず打たれます。そのすり合わせを試合前も試合中もする必要がある。また、打たれて負けたりした後もそれは大事です。打たれたピッチャーは、その日は気が立っていて話したがらない選手も多いんですけど、そういう場合でも次の日にはしっかり時間をとって話す。そうしないと同じミスがまた起こります。

 キャッチャーが自分で言うようになれれば一人前ですが、若いキャッチャーで年上のピッチャーになかなかうまく言えないときは、バッテリーコーチが間に入らないといけません。よくバッテリーコーチというとキャッチャーだけ担当しているようなイメージが強いですが、あくまで『バッテリー』ですので、配球などに関しては投手に対してもアドバイスをするべきなんですよ」

 相手と戦う前にまずは自分のチームの投手とのコミュニケーションが重要だということがよく分かる話である。そして、それができて初めて打者との対戦に向かうわけだが、そこで出てくるのがやはり配球の話だ。球史に残る名捕手である古田敦也も入団当初、苦しんだのは配球だった。

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名捕手・古田敦也も苦しんだ配球