だから、ある程度の技術がある若い控えのキャッチャーがいたら、もっと試合に使った方がいいと思うんですよね。いきなり先発ではなく、まずは点差が開いている負け試合などでいいと思います。そんな状況でも、まずは試合に出て経験を積めばそれが自信になると思うんですよ。ただ、試合に出るためには、控えキャッチャー自身の考え方も大事ですね。レギュラーが万全だと、最初から試合に出るつもりがないように見える控え選手もいるんです。キャッチングのところでも話しましたが、ベンチに座っているだけで、ブルペンで投げているピッチャーのボールも受けに行かない。(ヤクルトの本拠地である)神宮球場は特にそうなのですが、日が出ている時と日が落ちてからでは、ボールの見え方が違うので、試合中にボールを受けてないと感覚がずれてしまうんです。

 だから、途中出場のキャッチャーがパスボールすることが多いんです。せっかくの出番なのにつまらないミスをしてしまうのはもったいないですよね。自分がコーチの時は、日が落ちてから、控えのキャッチャーに『1回でいいからブルペンに受けに行け』と指導していました。また、キャッチャーは怪我が多いポジション。だから、レギュラーが怪我をした時にすぐ出られるように準備をしておかないといけません。ですが、他のポジションと比較すると、なかなか控えのキャッチャーには出番が回ってこないのが実情です。そんな中で、いつ出番が来てもいいように準備を怠らない。これは簡単なことではないですが、それをやらないことには、レギュラーに近付けないんです。個別のチーム事情もあり、簡単には言えませんが、キャッチャーがなかなか世代交代できないのは、そういった準備ができる選手があまりいないからというのも、大きいように思います」

 改めてキャッチャーがいかに特殊なポジションであるかを感じる。最近入団した選手では古賀優大(ヤクルト)、坂倉将吾、中村奨成(ともに広島)など楽しみな素材が出てきてはいるが、彼らが球界を代表する捕手になれるかは、しっかりとしたキャッチングの技術を身に付け、投手と密にコミュニケーションをとって配球を磨き、いかに試合に出るための準備ができるかにかかっている。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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