「配球はどうしても結果で語られてしまうところがあるので、本当に難しいんですが、まず陥りがちなのが相手の弱点ばかり見てしまうことです。特に、社会人野球出身のキャッチャーはこれが多いんですよ。都市対抗などはトーナメント制で一発勝負なのでそれでもいいと思うんですけど、プロ野球は1年を通じて何度も対戦しますから、それだけでは通用しません。たとえその打者の弱点でも、投げ続けているうちに何かしら対応されてしまうんです。なので、あえて打者の得意なコースの近くに投げて、そのバッターの状態や狙いを見ることも必要なんですが、それができるまでには時間がかかります。古田も入団当初は投手の決め球ばかり使っていて、何度も対戦しているうちに見極められて苦しくなっていました。

 そのことは監督の野村(克也)さんから相当言われていましたね。あとは打たれると同じコースに投げさせなくなって、苦しくなるということも多いです。『抑えたらOKで打たれたらダメ』という結果論で考えてしまうと、どうしても苦しい方向に行ってしまいがちです。しかし、そうではなくて、結果に至るプロセスが大事です。どんなデータや相手の状況を元にどういう意図をもってそのボールを投げさせたのか。さらにその結果をもとに次はどんな勝負をするのか。そこまで言えるようになるのは、経験を積まないといけません。さらに、記憶力も当然必要になってきます。スコアラーが持ってくるデータは、他のチームの投手との対戦の場合が多いですから、それだけを鵜呑みにするのではなく、あくまで自分のチームのピッチャーとの前の対戦がどうだったかを確認しないといけません。それもデータとしてだけでなく、記憶として持っておくことで、その場での判断に生かされてくると思います」

 キャッチャーは世代交代が最も難しいポジションと言われている。古田のいたヤクルト、谷繁のいた中日などはその典型例だろう。最後にどのように世代交代をすればいいのかを八重樫氏に聞いた。

「まずレギュラーのキャッチャーがいる状況で、もう一人、同じくらいの能力がある若いキャッチャーを育てるのは非常に難しいです。キャッチング、投手とのコミュニケーション、配球のいずれの能力も、まず試合に出ないと、どうしても成長しないですからね。特に高校から入ったキャッチャーは、二軍でもなかなか試合に出られないから難しいですよ。その時のチーム事情もありますが、高校卒で一年目からいきなり使われたのは、谷繁と伊東(勤・西武)くらいじゃないですか。二人ともキャッチングやスローイングの技術はプロに入った時点からよいものを持っていたので、試合に出させてもらえて、そして試合の中でさらに能力を磨いて行ったんだと思います。

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今後名捕手は現れるのか…