「僕は小さいころから家のお手伝いとして家事をするのが当たり前の家で育ちました。家事は家族が生きるためにみんなで協力してやるものだと教えられてきました。小学生くらいのころは、自分の担当家事が終わらないと学校にも行かせてくれないんです。それが嫌で嫌でしょうがなかったのですが、家事をやっている中でいろいろなことが身についていたことに気が付きました。嫌でもやらなければいけないから工夫して楽に早く終わるようにするので“考える力”、ちゃんと時間内に終わらせるための“計画力”、それにもちろん我慢してやるための“忍耐力”(笑)。トータルで見ると、一番身についたのは"生きるための力"だと思っています」

 彼の話を聞いていると耳が痛いことが多い。果たして自分の娘がこのくらいの年齢になったときに、こんなにしっかりした考えを持ってくれるのだろうか?と。一方で学生には学業も大切であることも確か。家事ができるだけでいいわけではないと感じる人もいると思う。その分、彼は日本でもトップクラスの大学の付属高校に通っていて、学業の面でも成果を上げているからこそ、説得力がある。

「家事は生きていくために絶対に必要ですし、それを覚えていくと、家族だけでなく周りにいる人たちと共生する、周りの人のために動くということが当たり前になって、社会で生きるために必要な力なんだと感じています。小学生のころ、姉の友人が僕の家にホームステイすることになったんです。彼女は不登校でしたが、僕らと一緒に家事のお手伝いをして、とても楽しそうにしていました。でも、高学歴な両親から成績が悪いことを責められ続けて不登校になったと聞きました。その時に、漠然と学業だけやっていてもダメなんじゃないかと思ったのです。今自分がその時の彼女と同じくらいの世代になって、やっぱり学業だけじゃない生きるための力、家事をしたり、人のために動いたりすることの重要さを実感しています」

 高校生にとっての“重要なのは学業だけじゃない”という言葉はきっと僕らの世代にしてみると“重要なのは仕事で稼ぐだけじゃない”という言葉に通じるものがあると感じる。ちょっと前の世代では大半の人が“それがすべて”だと思っていたものに疑問を持って、自分なりの価値観を見つけていくことは簡単ではないかもしれない。でも、世の中には高校生にしてすでにそういう思いを持って、しかも自分から行動している人もいる。世代が変わっていく中で何かが変わっていくのかもしれない。(文/「秘密結社 主夫の友」・杉山ジョージ)